武藤嘉紀は「戦術批判」をしていない 英メディア報道の“真実”を現地取材記者が告白

見出しが一人歩きする形で、「戦術批判」が事実のように定着

 ところが記事には、「isolated」(孤立)と私が言った英単語が、武藤のコメントとしてそのまま使われてしまったのだ。

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 いや、百歩譲って、孤立していたというのが武藤の言葉だったとしても、それは状況を説明しただけで、戦術を批判したことにはならない。「監督の指示でそうした」とは言っていないのだ。しかも武藤の言葉には、むしろ何もできなかった自分に腹を立てていて、監督を批判するニュアンスは全くなかった。

 しかし「孤立していた」と言っただけで十分だというばかりに、「戦術に抗議」という尾ひれまで付けて見出しにされた。これで万事休すである。

 その後は冒頭で書いた通り、日本のメディアがそのまま翻訳して記事にした。私が雑談のなかで発した言葉が、武藤が「クロニクル」のライダー記者に語った言葉として報じられたのである。

 こうしてこの見出しが一人歩きする形で、武藤が戦術批判をしたことがまるで事実のように定着してしまった。

 8月25日に行われた次節のトットナム戦、私は祈るような気持ちで取材に出かけた。

 もちろん試合前にライダー記者を見つけて、猛然と抗議した。あれは君と私の間の話で、使わないでくれと言った部分ではないか。それを使わないどころか「孤立」という言葉を見出しにして、「戦術に抗議」とまで誇張したのはどういうわけだと詰問した。

 ライダー記者は、「前半に1トップを務めたジョエリントンも周囲との連係がなく苦労し、あの試合で武藤が孤立していたのは明白だった。だから武藤の率直な意見として読者に伝えたかったし、それはいいことだと思う」と言った。

 しかし「見出しはどうなんだ」と、私は強硬に言った。戦術批判とぶち上げているじゃないか、それが日本でもそのまま翻訳されて報道された。そこに現時点では元イングランド代表FWのダレン・ベントまでしゃしゃり出てきて、武藤批判がさらに大きくなった。この状況を作り出したのはあの見出しではないか、と。

 するとライダー記者は「その見出しをつけたのは俺じゃない。編集サイド(デスク)がつけた。それについては申し訳ない」と謝罪した。

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森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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