“無名”FW食野、スコットランドで驚きの“王様”デビュー 知日家コーチ「年間15点」を確信

まさに“食野ショー” 前日に現地入りしたとは思えないキレのあるプレーに大歓声

 確かに前日、「トップ下でやりたい」と本人が言ったのは聞いていた。しかし欧州経験がない21歳の日本人FWを、移籍してきたばかりのデビュー戦でここまで厚遇するものだろうか。

 ともかく、英国で日本人選手がここまで明確にトップ下のポジションに収まるのを見たのは、2012年8月20日、エバートンの本拠地グディソン・パークで、香川真司(現サラゴサ)がマンチェスター・ユナイテッドデビューを果たした試合以来だ。この“食野システム”とでも言うべき布陣を見た瞬間、正直、久々にサッカーを見ていて期待で震えた。

 そしてその期待に違わず、21歳の日本人FWが出場してからは、まさに“食野ショー”となった。

 この約10分前の前半20分に、ハーツがクレアのゴールで先制しており、味方がボールを支配する展開になっていたこともあるが、まずはファーストタッチで場内が沸いた。軽くワンタッチでさばいたプレーだったが、ホームサポーターは大喜び。食野の動きも、この大歓声に乗せられるようにキレを増していく。

 本当に昨日到着したばかりとは思えない、生き生きとしたプレーだった。まずトップ下の選手らしくタッチが正確で、強いパスを受けてもボールを足もとから逃がさない。それにボールを受けた瞬間にプレースピードが切り替わる。ターンが速い。体幹が強そうな素早さ。切り返しも正確。さらに自分も「得意」と語ったドリブルの精度は非常に高い。

 敵味方合わせて20人のフィールドプレーヤーが躍動するなか、その技術の高さ(要するに上手いということだが……)、正確さで、浮かび上がってくるような存在感があった。

 こんな逸材だったのか――。ユース代表にも選ばれず、G大阪のトップチームで初ゴールを決めたのも今年の5月11日に行われたJ1リーグ第11節のサガン鳥栖戦。そんな全くの無名選手だった食野が、スコットランドのデビュー戦で放った輝きにまず目を見張った。そして、世間の注目が集まる前に白羽の矢を立てたシティのスカウト網の緻密さに思いを巡らせ、その凄さにさらに驚いた。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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