北朝鮮に振り回されたドタバタ被害の“実態” 平壌へ渡航予定だった日本記者のリアルな動き【コラム】

日本からは19人が平壌へ渡航予定だった【写真:Getty Images】
日本からは19人が平壌へ渡航予定だった【写真:Getty Images】

日本からは19人が平壌へ渡航予定だった

 森保一監督率いる日本代表は3月26日に予定されていた平壌開催の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)戦が中止となった。平壌開催にあたって、多くの関係者が動き、実現に向けて準備を整えていた。今回、報道陣は19人が渡航予定だったが、そのリアルな“ドタバタ劇”を記す。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)

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「一体何だったんだろうか……」

 初めに出てきた正直な感想だ。

 日本サッカー協会(JFA)は3月22日に26日に予定されていた北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選の北朝鮮対日本戦の開催判断について、中立地でも行わず、中止になったことを発表した。W杯アジア2次予選第4節の北朝鮮戦を巡っては当初、第3節の北朝鮮戦を3月21日に国立競技場で戦ったあと、26日に平壌で開催を予定していた。しかし、21日の朝に北朝鮮側の意向で白紙撤回。中立地の開催や日本での連戦などが候補に挙がったが、あまりの急な提案だったため22日にアジアサッカー連盟(AFC)は声明で「2024年3月26日に開催予定だったグループBの北朝鮮対日本の試合は、予期せぬ事情により、予定通り開催されない」と声明を発表した。

 そもそも、1月30日に1度、平壌開催が決定する。だが2月に行われたなでしこジャパン(日本女子代表)のパリ五輪最終予選において約2週間前に平壌開催が白紙になる事態が発生。結局なでしこジャパンは中立地のサウジアラビア・ジッダで試合を行った。その過程もあり、3月2日にAFCが平壌入りして現地視察。11日に再び正式に平壌開催が決定することとなった。

 これを受けて翌12日から報道陣にも動きがあった。まだ北朝鮮サイドの受け入れ人数などは不明ながら、ビザ申請がスタート。原本が必要のため、15日必着で書類を準備した。16日には北朝鮮への入国スケジュールが決定。ここで発生した問題が中国の報道ビザ取得だった。

 北朝鮮への入国にはまず北京入りする必要がある。予定では23日の午前中に北京へ移動して、在北京の北朝鮮大使館でビザを取得するはずだった。そして、中国での練習取材や滞在のために北京の報道ビザが必要だった。

 流れとしては中国からの招聘状が大使館へ届き、各ビザセンターでの申請ができるようになる。だが、その作業は通常なら3~4週間必要だという。平壌での開催が正式決定したのは試合の10日前。中国サイドとしてもこのスピード感で招聘状を出すのは“無理な注文”ではあった。

 なかなか中国からの招聘状が届かずビザ申請は滞る。それと並行して正式に北朝鮮サイドから22人の報道陣の渡航が認められたのが18日。私自身、22日の深夜便で北京入りする予定だったため出発の4日前に決定した。

 結局19人が渡航を決め、準備を進める。中国からの招聘状が届いたのが19日の午後だった。午後2時過ぎに「今招聘状を出した」という一報を受け、急いでビザセンターへ。結局、午後の申請だと発給に時間がかかると言われ「21日の午前に申請してもらえれば、22日の午後にはビザを発給してパスポートを返却できる」と伝えられた。

 もちろん、ホームの北朝鮮戦も取材予定だったため、朝イチで申請に向かい、そのまま国立へ。私自身は、大阪のビザセンターでの取得だったので試合以外の練習取材は諦めることとなった。そして、同日に平壌開催中止の報を受ける。この時点では第三国での開催があった場合、取材することを視野に入れていたため、翌朝大阪へ戻りパスポートを受け取りに行った。

繰り返された「こんなこと」

 世界中どこにでも行ける数泊分の準備を持って待機するも、結局は中止という結果に。数日間で多くの書類を準備し、何度もビザセンターへ足を運んだものの取材には至らなかった。

「平壌で繰り広げられた試合は必ず伝えなければいけない」

 そう決意していたため、中止という結果は森保監督や選手たちとは到底比べることはできないが、私自身も残念な気持ちとなった。

 今、JFAとしては今回の試合の取り扱いについて国際Aマッチ以外での延期となるのか、没収試合となって日本の不戦勝となるのかFIFA(国際サッカー連盟)の決定を待っている。いずれにしてもしっかりと勝って2次予選突破を決めたかった。前代未聞のドタバタ劇……。W杯出場を目指してどれだけチームが集中して一戦に懸けているか。2月になでしこジャパン主将DF熊谷紗希が「こんなことあってはならない」と発信した。どうして再び起きたのか。熊谷の言葉を借りるが、次こそこんなことはもう2度と起こってはいけない。

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(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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