37歳元Jリーガー監督、指導実績“ゼロ”も辣腕 原石となった闘莉王からの金言

キャリアを積み重ねて抱いた“葛藤”、その経験が指導の場でも生かされる

 8番を小川が背負っていたら、西野監督の起用法まで変わっていたかどうかは想像するしかないが、少なくとも先入観なく別の起用法をしていたかもしれない。

 小川は名古屋で浮き沈みの10年を過ごした。その間、新人王となったシーズンより得点を挙げたことはなく、2番目に得点を挙げたのは2013年の9得点。この間の背番号10を見て、「もっと得点を狙ってほしい」と思ったファン、サポーターは少なくなかったとも思う。

 かく言う筆者もその一人だったが、小川は現役時代、その点については別の視点を持ち続けた選手だった。得点が多かったのは自分の未熟さゆえ。何やら矛盾する言い回しだが、説明を聞けば納得はできた。それは、言うなれば“成長痛”のようなものだったのだ。

「2年目の活躍はチームのおかげでした。自分が何か素晴らしいものを持っていたからではないです。その時は活かされること、良さを出すことばかり考えていた。シュートが相手に当たって入るシーンもありましたけど、一方では、オーバーラップした良い状態の選手やフリーの選手がいたかもしれないんです。

 周りが見えていないことが『シュートを打つ』という選択肢になっているわけで、思いきりの良さにはつながっていたんですけど。そこがだんだん年齢を重ねていくとプレーに余裕が出てくるもので、2年目で見えていなかったものが3年目、4年目では見えるようになる。選択肢が増えてくると、ここはパスしたほうが良いという判断になる。

 2年目は無理やりにでも打っていたシュートが、パスになるんですね。そこから自然とシュートの本数は減って、得点が取れなくなってきて。そのあたりは実はもどかしい部分でもありました。下手になっているわけではないけど、思いきりの良さは減っている。選手ってそういうところがあるとは思うんですけど、そういうさじ加減が自分の中では、年を追うごとに難しくなっていったとは思います」

 だから2013年の9得点は、チームがやや低迷する中で個を追い求めた副産物のようなもので、成長がもたらした良い得点の取り方でもなかったと言う。こうした経験は現在の指導の場でも生かされており、得点を奪うポジションの選手にはよく問いかける。

「パスばっかり探さないで、シュート(で足を)振ればいい。あとで『パスすれば良かった』とか思ってたとしても、シュートは打てているし、打たなきゃ入んないんだから」。年齢も比較的選手に近く、現役としてピッチに立っていたのも数年前である感覚もまだ新鮮な小川の言葉は、まだまだ伸びしろのある若手たちに良く響くことだろう。

今井雄一朗

いまい・ゆういちろう/1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。Jリーグの名古屋グランパスや愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする。現在はタグマ!にて『赤鯱新報』(名古屋グランパス応援メディア)を運営し、”現場発”の情報を元にしたコンテンツを届けている。

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