19歳の涙と論争呼ぶ“PK人選”の背景 悲劇を知るサウスゲートが準備した緻密な戦略

ブカヨ・サカを慰めるサウスゲート監督【写真:Getty Images】
ブカヨ・サカを慰めるサウスゲート監督【写真:Getty Images】

【イングランド発コラム】英国中が熱狂し涙したEURO決勝、サウスゲート監督はPK戦へ万全の準備をしていた

 それはイングランドに限らず、日本も同じだと思うが、普段はサッカーに興味がないという人も代表戦となれば話は別となる。しかも欧州選手権(EURO)というメジャー大会の決勝。7月11日、英国でテレビの視聴者数は3000万人を超えた。こんな数字を記録したのは1997年8月に、パリで非業の死を遂げたダイアナ元妃の葬儀以来だったという。

 文字通り、イングランドの全国民が固唾を呑んで見守ったPKだった。普段はそれほどサッカーに興味があるわけではない、マンチェスター大学に通う筆者の19歳の娘も、親友と一緒に校内のバー(英国の大学にはバーがあるのだ)に設置されたパブリック・ビューイングに参加したという。そこでキックオフ直後の前半2分に決まったルーク・ショーの先制弾で、全身がビールでびしょ濡れになった。そして同い年のブカヨ・サカがPKを外して号泣すると、彼女も親友と抱き合って泣き崩れたという。その後、筆者に「最低でも24時間は誰とも話したくない気分」と携帯メールを送ってきた。

 本当にもう一歩のところだった。サッカーの発祥国であり、世界に誇るプレミアリーグがありながらも、1966年のイングランド・ワールドカップ(W杯)で世界一となって以来、ここまでメジャー大会優勝に近づいたことはなかった。

 しかし残念ながらイングランドは、またしても、しかも今度は決勝という舞台でPK戦で敗れ去った。

 当然、このPK戦の人選に疑問を呈した人間もいた。特にこの決勝を生中継した民放「ITV」の解説を担当した元アイルランド代表MFロイ・キーンは、19歳のサカを5人目のキッカーとしたことに猛然と反発した。

 黄金時代のマンチェスター・ユナイテッド主将だったキーンが批判の対象としたのは、ギャレス・サウスゲート監督ではなく、年上選手のラヒーム・スターリングとジャック・グリーリッシュだった。「どうしてこんな大事な場面で19歳に蹴らせた。どうして俺が行くと言わなかった」と言い放って、激しく責めた。

 すると、グリーリッシュがすかさずツイッターで反論した。

「僕は蹴りたいと言ったんだ。ガッファー(ボス、監督の意)の決断は今大会中、その多くが正しかった。そして今夜も(PKの人選も)そうだった。しかし、誰かに僕がPKを蹴りたくなかったと言わせることはできない。蹴りたいと言ったんだから」

 これを読んでも今回のEUROではチームプレーに徹した印象を与えたアストン・ビラの王様が、キーンの非難に傷つき、悲痛の叫びを上げたのは明白だ。

森 昌利

1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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