19歳の涙と論争呼ぶ“PK人選”の背景 悲劇を知るサウスゲートが準備した緻密な戦略

ラッシュフォードは相手GKの逆を突くも、ポストに嫌われた【写真:AP】
ラッシュフォードは相手GKの逆を突くも、ポストに嫌われた【写真:AP】

想定外だったはずのラッシュフォードの失敗

 しかしサウスゲートは違った。

 それはPK戦で敗退した直後に「私が人選した。クラブでの実績、そして練習を見て決めた」というコメントからも伝わってくる。しっかり練習を見て、決めたのだ。それに加えて、この人選には考え抜かれた思考も感じる。

 一番プレッシャーがかかるのは、なんと言っても最初のキッカーだ。ここに主将ハリー・ケインを置いた。トッテナムでも不動のPKテイカー。そしてDFながらPKが上手いハリー・マグワイア。レスター時代から、そのPK技術には定評があった。しかもメンタルが強い。

 そして3番目はマーカス・ラッシュフォード。昨季の序盤戦、失敗が続いたポール・ポグバに代わってマンチェスター・ユナイテッドのPKテイカーとして定着。ストライカーとしての技術は申し分ない。さらに4番手のジェイドン・サンチョ、5番手のサカも決定力のあるストライカー。おそらくこの2人は、練習で抜けた存在だったに違いない。

 一方、キーンが「蹴るべきだ」となじったスターリングがマンチェスター・シティでPKを蹴ったところを見たことがない。もちろん、PK戦となっても出てきた試しがない。グリーリッシュもPKテイカーとしての印象は非常に薄いし、個人的には蹴った記憶がない。

 サウスゲートは3人目のラッシュフォードまでは絶対的な自信があったはずだ。そして3人目まで成功の波に乗れば、若いが練習でPKを決めまくるサンチョとサカも後に続いてくれるはずだと信じた。さらに4人目、5人目ともつれる前に、PK戦ではイングランド同様、苦い経験があるイタリアが外してくれたら、若い2人から絶対に決めなくてはならないというプレッシャーが緩和される。

 実際ケイン、マグワイアと素晴らしいPK成功が続き、イタリア2人目のアンドレア・ベロッティが失敗して、ここまではサウスゲートのシナリオ以上の展開となった。主将とユナイテッドの巨漢DFのPKが連続して完璧だったこともあり、ここで全国民がイングランドの優勝を予感したはずだ。ついに我らイングランドがPK戦に勝利して、初のヨーロッパ・チャンピオンになる――。

 ところがラッシュフォードが、信じられない失敗をした。準決勝、決勝と続いたPK戦に勝利し、大会MVPにもなったイタリア代表GKジャンルイジ・ドンナルンマがラッシュフォードのフェイントにこらえ切れず、右に飛んだ。ユナイテッドの23歳FWはがら空きとなった左サイドにボールを流し込むだけで良かった。しかし蹴る瞬間、ドンナルンマの動きが目に入ったのか、肝心のボールから目が離れて、そのシュートは左に寄り過ぎ、無情にもポストに当たった。

森 昌利

1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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