激震の神戸より“危機的”なのは浦和? イニエスタ不在の一戦で見えた根深き問題
浦和が5万人超の観衆の前で辛勝 監督交代に揺れる神戸に対し重心を下げ1点を死守
埼玉スタジアムから帰途に就く歩道や電車内では、四方八方から「イニエスタ詐欺」という言葉が聞こえて来た。4月20日のJ1リーグ第8節、浦和レッズがヴィッセル神戸をホームに迎えた一戦の観客動員は5万4599人で、同会場でタイトルを争った昨年度の天皇杯決勝(5万978人)や今年2月の富士ゼロックススーパーカップ(5万2587人)を超えた。
【PR】ABEMA de DAZN、明治安田J1リーグの試合を毎節2試合無料生中継!
スタンドを見渡せば、大半が赤を身にまとっていたから、多くの浦和ファンもアンドレス・イニエスタのプレーを楽しみにしていたに違いない。これでイニエスタは、埼玉スタジアムで2年連続欠場。浦和のオズワルド・オリヴェイラ監督は「どうもここでプレーするのが嫌いみたいだね」とジョークを発した。
神戸サイドは、フアン・マヌエル・リージョ監督の退任を受けて、指揮権を引き継いだ吉田孝行監督が「(イニエスタは)全然大きな問題ではない」とコメントしているから、ルーカス・ポドルスキの主将辞退も合わせてチーム内の混乱ぶりが透けて見える。ボールは保持していても、一向に攻撃のスピードは上がらず、最終段階での精度も欠いた。ビッグネーム招聘は、観客動員には大きな効果をもたらした。だが反面、チーム作りの難しさも浮き彫りにした。
ただし資金力を活かして夢を売ろうとした神戸に対し、それ以上に根の深い問題を引きずっているように映るのが、勝った浦和のほうである。
開始10分で相手のミスからPKにつなげて先制した。前半を終えたオリヴェイラ監督は「もっとプレスをかけて圧力を強めよう」とコメントを残している。しかし、本当に浦和がプレスをかけようとしていたのかは疑問だ。
神戸は2枚のセンターバックの間に、セルジ・サンペールと山口蛍のどちらかが降りてビルドアップを始める。そこには一応エヴェルトンと柏木陽介がついていくが、過度な自由を制限する程度の巡回警戒に過ぎず、基本は5-4-1を深めにセットして守備重視を貫いた。決勝点を挙げた興梠慎三が「見苦しい試合」と認めたように、大観衆はホームチームが重心を下げて1点を死守するのを見せられることになった。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。