ドルトムントはなぜ18歳日本人を獲得? 重要視された”能力”「2年以上前からスカウトしていた」

ボルシア・ドルトムントの山本天翔【写真:柳瀬心祐】
ボルシア・ドルトムントの山本天翔【写真:柳瀬心祐】

ドルトムントはG大阪からMF山本天翔をレンタルで獲得

 なぜ、ドルトムントは山本天翔(18)を獲得したのか。

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 今夏、日本の若き才能がドイツの名門へ渡った。かつて香川真司の成功をきっかけに、ドルトムントファンによる日本人選手獲得への期待はかなり大きい。近年はジャパンツアーにも積極的な姿勢をみせているだけに、「日本市場へのさらなる進出」という見方もできる。

 今回、ブンデスリーガ主催のインターナショナルメディアツアーに参加し、現地でドルトムントの育成ダイレクター、ポール・シャフランに直接話を聞く機会があった。いつから、どのように注目していたのかを尋ねてみたところ、今回の獲得が決して短期的な判断ではなかったことを明かしてくれた。

「2年以上前からスカウトしていたと思います。特に日本U-19代表での試合から注目し、プレーしているところをかなりチェックしました。非常に長いプロセスがありました。代理人とも、クラブとも何度も話しました。彼をドルトムントに連れてくるというのは、1週間で決まるような話ではありません。国際的な移籍は、国内の移籍よりも常に難しいです」

 そう明かしたシャフラン。それでは、ドルトムントは山本の何を評価したのか。どの点を見て、「山本はドルトムントのサッカーに合うはずだ」と判断したのだろうか。

 最初に挙げたのは、技術的な能力だった。

「彼の特別なところは、まず技術的な能力だと思います。非常によく育成されています。ボールコントロールが素晴らしい。狭いスペースでもボールを扱える。そしてゲームへの理解もあります。これは非常に重要なポイントです」

 シャフランは、アカデミーでの育成について、スキルとフットボールブレインという2つの要素をキーファクターとして挙げている。ここでいうスキルとは、単純にドリブルやパスという個々のテクニックが上手いという意味ではない。攻撃だけでなく守備も含め、サッカーに必要な技術を流れの中で発揮できるように、身につけていることが求められる。

 そして、もう一つ重要なのがフットボールブレイン。

「例えば、自分がここに動けば、味方は別の場所に動く。そこでパスを出せば、次にどこにスペースが生まれるのか。そういったことを理解できる選手です」

 つまり、目の前のプレーだけではなく、その先までゲームを捉える能力。山本が評価された「ゲーム理解」も、まさにこの部分に重なる。

「正直なところ、フィジカル能力はまだそれほど高くはないかもしれません。最も速いというカテゴリーにいる選手でもありません。ただ、それを差し引いても、非常に才能があり、いわゆる《ギフテッド》な選手です。ドルトムントに来てすぐトップチームのプレシーズンに参加したことも、私たちが彼に大きな期待を持っていることの表れです」

 期待値は高い。だがそれはほかのポテンシャルを見込まれた若手選手に対しても同様だ。現在トップチームではイタリア人DFルカ・レギアニ(18)、FWサムエレ・イナシオ(18)、エクアドル人MFジャスティン・レルマ(18)、ブラジル人DFプラテス・カウア(18)ら10代選手が多くメンバー入りを果たしている。さらに今夏ギリシャ代表MFコンスタンティノス・カレツァス(18)が3000万ユーロ(約55億円)の移籍金で獲得され、いきなりレギュラーポジションを獲得。そうした競争に、山本はまず勝たなければならない。

 焦る必要はない。シャフランも新しい国、新しい文化、新しいサッカーへの適応には時間が必要だと考えている。

「いずれトップチームまで到達できると考えています。ただ、新しい国、新しい大陸に来た若い選手にとって、最も重要なのは、新しい競争環境への適応と、試合に出る時間です。だから、U-23で多くのプレー時間を与えることになるでしょう」

 そして、トップチームを率いるニコ・コバチ監督も同様の考えを口にしていた。

「技術的に非常に良いものを持っていますね。そして日本人選手に共通するように、とてもプロフェッショナルです。ただ、すぐトップチームで彼に出場時間を与えるのは、私にとっては難しい。セカンドチームで成長し、自分のクオリティを示してほしい。チャンスはあります。彼が今のように努力を続ければ、トップチームに来ることができると私は確信しています。ドアは常に開いています」

 世界中から若き才能を集めるドルトムントにとって重要なのは、その選手が数年後にトップレベルでプレーできるようになること。そのためにクラブが見ているのは、今のパフォーマンスや数字だけではない。将来的にトップチームの要求に適応できるだけの成長が見込まれるかどうか。山本がそんなドルトムントが求める選手像に合致したからこそ、長い時間をかけて獲得に踏み切った。

 今季、山本がどれだけトップチームに近づけるかはまだ分からない。だがすぐに出れなくても、それで失敗ということにはならない。今の環境でどのように取り組み、どのような成長を遂げて、どのようなチャンスをつかむのか。数年後、たくましく成長した山本が80000人強のスタジアムで躍動し、ドルトムント首脳陣とファンが万雷の拍手を送っているかもしれない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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