J2指揮官の野心「日本代表監督を」 奇跡のキャリア…ライセンス講習会で言われた「お前が取るの」

刺激を受けている世界的名将たち
昨今は海外のスタンダードを取り入れようとするJリーグ指揮官が数多くいるが、横浜FCの須藤大輔監督もその1人だ。
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「今の選手たちってパッションだけではついてこないと思うんです。ロジカルな部分もないと彼らを納得させることは難しい。僕はJ3のガイナーレ鳥取、J3からJ2に上がった藤枝MYFCを経て横浜FCに来ましたけど、今のチームにはJ1トップクラブにいた選手も何人かいる。彼らに『なぜこのサッカーをするのか』をしっかりと説明できないとついてきてくれない。監督も常に勉強していなければいけないと強く感じます」と彼は自戒を込めて言う。
例えば直近の北中米ワールドカップ(W杯)であれば、2010年南アフリカ大会以来の王者に輝いたスペインを興味深く見たという。U-19、U-21、五輪、A代表とカテゴリーを上げながら長期間選手たちを見てきたルイス・デ・ラ・フエンテ監督が同国の指揮を執り、パスワークと強度の高い守備を併せ持った最強軍団を構築したわけだが、その手腕には目を見張るものがあったようで、須藤監督は世界最強国から大きな刺激を受けたという。
「『W杯はお祭り』という感覚があって、最初はあまり観ていなかったんですが、『スペインのサッカーが面白い』と評判になったので、決勝トーナメントの4試合を観ました。スペインの凄さは何を言われようとあのパスサッカーを長年継続してきたところ。まさに横浜FCが今、大事にしていこうとしている『フィロソフィー』があるんです。そこに守備強度も加わったわけですから、当然強いですよね。魅力的なタレントも含めて、本当に理想的なチーム。ああいう攻撃的なサッカーを追求していきたいと改めて思いました」
それ以外にも注目している世界の監督が複数いるようだ。
「1人は昨季イタリア・セリエAで4位に入り、UEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)圏内に大躍進したコモ。元スペイン代表のセスク・ファブレガスが率いているチームです。
コモはもともと全然お金のないチームで、2023-24シーズン途中にセスクが暫定監督になり、セリエB・2位に入ってセリエAに昇格。24-25シーズンから正式に就任する形になりました。就任当初は粗削りな選手しかいないような状況だったのに、ボールを回していて、時にはとんでもない失敗をするんです(苦笑)。相手にパスをして、そのままゴールに入れられたりする試合も観ましたね。それがセリエA昇格から2年目で欧州CLまで上り詰めた。それは本当にすごいこと。鮮烈な印象を受けました。
2人目はトッテナムのロベルト・ゼ・デルビ。もともと三笘薫が在籍するブライトンの監督として日本では知られていましたけど、斬新な3バックシステムを採り、ボランチを含めた5人が密集しているところでボールをつないで疑似カウンターを打つというのは、そうそうできることじゃない。
もう1人は今季からリバプールに行ったアンドニ・イラオラ。ボーンマスではアグレッシブなプレス戦術を浸透させ、クラブ史上初の欧州カップ戦出場権を取り、リバプールにステップアップした新進気鋭の監督です。そういう尖ったことを愚直にやり続ける監督が好きですね」
選手時代にトップではなかった彼は「自分にしかできない面白いスタイルを見せたい」という欲求が誰よりも強いのだろう。そうすることで「甲府がJ1初昇格した時の元FW」「桐光学園の中村俊輔の1つ上の選手」といったレッテルを自ら取っ払って、「須藤大輔という1人のトップ監督」になれると感じているのではないか。
「自分は2015年にJFA公認S級(現Pro)ライセンス講習会に参加したんですけど、同期には宮本恒靖(日本サッカー協会)会長や元日本代表の福西崇史さんがいましたし、『お前がSを取るのか』という意見も耳にしました。僕は引退後、山梨学院大学やサッカースクールで指導していただけだったんで、そういう声が出るのも理解できました。
だけど、指導者としての夢は大きい。『デッカイ山に登る』というのは、僕の中の格言なんですが、もちろんトップ・オブ・トップの日本代表監督だって目指したいと思っていますよ」と須藤監督は際限ない向上心を隠さない。そのストレートなところが彼のいいところ。「自分の本音を言わない方が得だ」と考える人間が少なくない今の時代にあって、こういう人物は非常に貴重。有言実行の精神で上へ上へと上り詰めてほしいところだ。
考えてみれば、北中米W杯でイングランドを3位に導いたドイツ人のトーマス・トゥヘル監督も選手としては無名で、早く引退して指導者に転身した。最初は母国シュツットガルトのユース年代の指導からスタートし、アウクスブルクを経てマインツのトップチームで成功を収め、ドルトムント、パリ・サンジェルマン、チェルシー、バイエルン・ミュンヘンというトップクラブの監督を歴任。ついにはサッカーの母国の代表監督にまで上り詰めたのだ。今回のW杯では準決勝・アルゼンチン戦での采配が物議を醸したが、ここまでのミラクルキャリアを歩む監督がいるのも確か。日本でも能力主義がより浸透していけば面白い。
「自分みたいに代表キャリアゼロの監督が成り上がっていければ、新たな扉を開くことにもつながると思う。そういう監督も増えていますし、着実にそういう時代になってきていると思うので、とにかく今季結果を出すように頑張ります」と49歳の野心家は勝利への意欲を誰よりも強く押し出していく構えだ。(第6回に続く)
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。























