1チームは何人が適任? “学生コーチ”の難しさも…海外指導者が恐れる健全性の欠如「山ほど出てくる」

モラス雅輝氏が指導者目線で語った
「1チームにおける最適人数は18-20人。それ以上になると健全性が失われる」
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これは僕が受講したドイツサッカー協会公認A級ライセンス講習会であったディスカッションだ。11人制のチームでシーズンを戦ううえで1チーム何人が最適だろう、というテーマについて、僕らは激しく話し合っていた。「ポジション争いは選手の成長に必要だが、それはあくまでも健全な競争でなければならない」とは指導教官で、ドイツ指導者育成第一人者だったベルント・シュトゥーバーの言葉。(取材・文=中野吉之伴)
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「健全性が失われる」とは、「試合に出るための努力が反映される選手が極めて少ない」「選手が試合に出場できないのは損失」「選手間で必要以上の敵対心が生まれてしまう」「格差が生まれ不要な衝突の要因となる」ことをさしている。
日本の部活動に関しては部員数が多い点が問題視されることが少なくない。多いところだと200-300人は所属しているという。複数の指導者を配置してうまく対応しようとしている学校もあるが、全ての選手をまんべんなくリスペクトをもってケアできるかというと、できていないところの方が多いのが現実ではないだろうか。
そうなるとどれだけ気をつけようとも、どこかで《健全ではないヒエラルヒー》が生まれ、いじめが生まれやすい構造にもなってしまう。もちろん十分な指導者を雇うだけの予算的な問題もあるだろう。ただ、「だから仕方がないよね」というままではいつまでも状況は改善されない。
日本、欧州で指導者としての経験豊富なモラス雅輝氏に話を伺った。もしモラスが「200人の生徒を預かります」となったら、どういう仕組みをまず考えるのだろうか?
「200人を一人で見るのはもちろん無理。最適なチーム分けをして、指導者チームで対応するしかないと思います。信頼できるスタッフと協力して取り組む。うちのクラブでも僕が統括している育成アカデミーからU23までの選手を合わせると、230-240人くらいになります。1人で何もかもをしようとしたら、自分で把握できないことが山ほど出てくる。全ての選手をちゃんとケアするためには、指導者チームの信頼関係がカギになります。風通しのいい関係性でオープンなコミュニケーションが取れるようにして、みんなが同じ方向を向いて取り組めるようにします。
今一緒に仕事している幼稚園児対象のコーチからU23チームの監督コーチまでスタッフの総数は30人ほど。この30人といかにうまくスムーズに連携を取っていくかがとても大事です」
モラス氏はヴィッセル神戸時代の話を例として挙げた。トルステン・フィンク監督(当時)は、コーチ陣、分析スタッフ、通訳、マネジメント関係ら全スタッフとの良好なコミュニケーションに尽力していた。
「フィンクはスタッフのマネジメントにすごく力を入れていました。スタッフが選手に対していい仕事ができるように環境を整えること。彼らが気持ちよく仕事できるようにとすごく気にしてたんですよね。実際にそうすることで、クラブ内の空気はとてもよかったし、それがチームの好成績にもつながっていった。そういうお手本を現場で見ることができたのはありがたいことでしたね」
それぞれのスタッフがやっていることがバラバラだと、つながりも交流も作りにくい。選手に対するチーム作りを進める前に、コーチ、スタッフにおけるチームビルディングを丁寧に行うのは、必要不可欠なこと。もしスタッフを十分に雇うことができるのであれば、その点を重要視すべきだろう。
ただ日本の中、高、大学の現場となると、コーチ、スタッフをたくさん配備するのは現実問題簡単なことではない。外部指導員制度を使える可能性はあるとはいえ、質的に量的に十分な指導者を雇うとなると、クリアしなければならないハードルはまだまだ大きい。
そうした人員不足を補うためにもと、大学サッカーでは学生コーチがサポートに入ることが多い。中、高校サッカーではOB/OG選手がコーチとしてサポートするケースもある。予算の関係で学生コーチを使わなきゃいけないのであれば、「その学生コーチをどのように育成し、哲学を浸透させ、選手も指導者も成長できる環境を作り出せるか」がメインテーマになってくる。
「本当にその通り。指導者には最適なトレーニングメニューを考案し、戦術的狙いを落とし込み、選手とディスカッションをして、チームビルディングを敢行することが求められるわけですが、学生コーチは同じ年代の選手相手にこれをしなければならない。すごく難しいことです。最初からうまくいくわけではない。だからといって、『学生コーチだからそこまで期待はしてないし、問題が起きないようにしてくれればそれでオッケー』という関わりだけでは、お互いにとって成長につながりません。
うちのクラブに横田晃明という日本人指導者がいます。ザンクトペルテンにきて3シーズン目ですが、成長が著しい。U15セカンドチームでいま実質的な監督をしてもらっています。試合前の分析やミーティング、練習メニューや1対1での個別相談をすべて一人でドイツ語でやっています。彼がここに来た時と比べたら、ものすごく成長している。
クラブもしくは高校とか大学でそういう優秀な指導者としてのタレントを発掘して彼らが育つ環境を作るのにはすごく価値があるんだなって実感しています。日本にも磨けば伸びるであろう若い指導者の卵がたくさんいるんですから」
定期的に指導者ミーティングを行い、丁寧に現場の様子に耳を傾け、アドバイスを送る。トライ&エラーの繰り返しで指導者としての力量は間違いなくアップするだろう。指導者の質があがればトレーニングの質も上がり、選手の成長にもつながる。いいことづくめではないか。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。





















