もし「大谷翔平」がサッカー界に出現したら… W杯優勝の可能性と意外な落とし穴

日本サッカー界に大谷翔平が出現する可能性は?【写真:ロイター】
日本サッカー界に大谷翔平が出現する可能性は?【写真:ロイター】

近年は輸出型のJリーグ…「大谷」効果は及ばない?

 日本サッカー界に「大谷翔平」は出現するだろうか? よくある問いだけれども、ではサッカー界に「大谷」が出てきたとしたら、日本サッカーはどうなるのだろうか。

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 サッカー界の大谷が現れたとすれば、世界最高クラスの選手ということになる。実際に大谷がそうであるように、その活躍は連日ニュースになるだろうし、CMでもその姿を見ない日はないという感じになるだろう。

 そんな選手がいれば、日本代表はワールドカップ(W杯)優勝を狙えるかもしれない。4年に1回しか機会がないので、その時の状況にもよるだろうが、世界一の選手がいるなら世界一になるチャンスはありそうである。

 だが「大谷」効果が及ぶのは、その程度ではないだろうか。W杯で優勝できそうな日本代表を持てるのだからそれで十分ではあるけれども、Jリーグにはあまり関係がなさそうである。

 大谷クラスでなくても、優秀な日本人選手は軒並み欧州でプレーしている。この時期は毎年人材が欧州へ流出していて、今やJリーグは輸出型リーグとなった。そして輸出型リーグは輸入型リーグを上回ることがない。サッカー界に「大谷」が出現しても、彼がプレーするのはレアル・マドリードやマンチェスター・シティであってJリーグのクラブでないのは確実だ。

 Jリーグで少し活躍すれば、すぐに欧州移籍が決まるようになった。それどころか才能さえあれば実績すら問われなくなっている。ブラジルやアルゼンチンがすでにそうなっているように、日本もベストな選手は欧州にいるので、クラブレベルで欧州勢を上回ることは至難と言える。さらに厄介なことに、アジアには欧州を上回る輸入型リーグが存在している。サウジアラビアだ。

 2023年の売上げで比較すると、クラブW杯でベスト8入りしたアル・ヒラルは約2億9000万ドル(約423億7000万円)、J1最高の浦和レッズが103億8400万円。浦和は売上げ100億円を超えていて、Jリーグが中間目標としているASローマやビジャレアルの規模にはすでに到達している。しかし、補強費用を比べるとアル・ヒラルの約5億6200万ドル(821億円)に対して、浦和はざっくり10分の1程度と差がある。

考えられるJリーグの未来像、「大谷」が日本で見られるのは…

 政府系ファンドが支援しているアル・ヒラルなどサウジアラビアの有力クラブは、収益を度外視した補強を行っていて、Jクラブが対抗するのは不可能だ。向こうは国策、こちらは身の丈経営なので勝負にならない。AFCチャンピオンズリーグエリートで優勝してクラブW杯に出場というJリーグの強化戦略にとって、サウジアラビアが壁になるのは明白である。

 ただ、例えばリーグ・アン(フランス)の選手たちがプレミアリーグ(イングランド)への移籍を目指しているように、Jリーグの選手がサウジアラビアリーグへの移籍を目標にしているかといえば、現状そうではない。年俸より選手としてのステータスを重視している。つまり欧州トップリーグやUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で活躍したいわけだ。

 輸出型の国は代表チームの強化という点では、輸入型より有利になるケースが多い。欧州移籍の増加は日本代表にとってはプラスだ。しかし、Jリーグの地位が低下し続けると、やがて育成力が衰えて“大谷級”を生み出せなくなるだろう。

 Jリーグの未来像として考えられるのは3つの方向性だ。

1:欧州中堅国や南米のように、選手を供給するリーグになる(現状がこれに近い)
2:フランスのパリ・サンジェルマン(PSG)のように、輸出型でも突出したクラブを作る
3:欧州に対抗できるもう1つの極を作り、その中に入る

 もし、日本サッカーが「大谷」を生んだとして、その人を国内リーグで見られる可能性があるのは、2か3の未来しかない。ただ、日本版PSGができても欧州でプレーするほどのステータスはないので、現実的な可能性としては3だけだろう。

 人口と資本力で圧倒的な米国、中国を取り込み、人材の宝庫として南米を吸収すれば欧州に対抗できるステータスを持つ勢力を作れるかもしれない。かなり飛躍したビジョンになってしまうが、それくらいしか「大谷」にJリーグでプレーしてもらう方法は思いつかない。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



page 1/1

西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング