Kリーグは日本と「そこまで変わらない」 日本人指導者が韓国で実感…待遇も改善「J中堅より年俸も高いのでは」

大田ハナシチズンで戦術コーチを務める吉田達磨氏【写真:元川悦子】
大田ハナシチズンで戦術コーチを務める吉田達磨氏【写真:元川悦子】

大田ハナシチズンで戦術コーチを務める吉田達磨氏が語る韓国の今

 7月15日の2025年E-1選手権(男子)の大一番・日韓戦がいよいよ目前に迫ってきた。

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 E-1選手権では毎回、最終節の日韓戦が実質的な決勝となる構図が続いており、今回もその流れは変わらない。日本は第1戦でホンコン・チャイナに6-1、中国に2-0と2連勝。一方の韓国も中国に3-0、ホンコン・チャイナに2-0と連勝し、ともに2戦2勝で最終節を迎える。

 韓国は7日と11日に2試合を消化しており、8日と12日にゲームのあった日本に比べると日程的に有利。さらにホームアドバンテージもあるだけに、森保ジャパンとしてはより一層の警戒が必要だ。

 韓国を率いるのは、2024年7月に約10年ぶりに代表監督に復帰したホン・ミョンボ監督。2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選では、2024年9月のホーム初戦・パレスチナ戦でスコアレスドロー。いきなり足踏み状態を強いられたが、そこから立て直してオマーン、ヨルダン、イラク、クウェートに白星を重ね、前半戦を終了した。

 しかし後半戦では、パレスチナ、オマーン、ヨルダンに3試合連続ドローという苦境に直面。この時点で隣国・日本が史上最速のW杯出場を決めたこともあり、自国メディアからは「内容が最悪」「なぜここまでレベルが落ちたのか」「強豪には勝てない」といったネガティブな声が続出した。

 そういった雑音を封じ込めるように、今年6月のイラク戦で11大会連続のW杯出場権を獲得。しかし、最新のFIFAランキングで日本が15位なのに対し、韓国が23位と開きがあり、選手層の厚さなども含め、今回のE-1選手権でも「日本より劣勢」という見方が根強く残っている。

 そうした見方に異を唱えるのが、Jクラブで指揮を執った経験を持ち、Kリーグ1部・大田ハナシチズンで2024年7月からファン・ソンホン監督の下、戦術コーチを務める吉田達磨氏だ。

「韓国に来てちょうど1年が経過しますが、韓国サッカーや韓国代表のレベルが下がったとは感じません。韓国では困難に直面すると悲観的な目線で物事を捉えがちですが、Kリーグを見てもリーグ全体のレベルはJリーグと比べてもそこまで変わらない印象を受けています。日頃の練習の緊張感は日本のほうが断然高いと思いますが、ポテンシャルは依然非常に高いと感じています」

待遇面にも注目「Jリーグの中堅クラブの選手より年俸も高いのでは」

 戦術面での進化に加え、選手の待遇面にも変化があると吉田氏は語る。

「今は戦術面に目を向けるチームが多くて、3バックから4バックへの可変スタイルが目立ちます。ACLエリートでヴィッセル神戸を破った光州FCのイ・ジョンヒョ監督も『戦術家』と言われていますが、多彩なシステムを駆使して戦う傾向が強まっていますね。Kリーグ選手の待遇面も以前よりかなり上がっていて、Jリーグの中堅クラブの選手よりは年俸も高いのではないかと思います。実際、大田にしても、練習場に寮や食堂、筋トレルームやメディカル施設などが全て整っている。スタッフと若手選手もそこに住んで、チーム強化やレベルアップに注力しています」

 また、選手のフィジカル面にも注目している。

「食堂にしても、メニューも肉や魚、卵などのタンパク質は豊富で、しっかりした身体作りができるように配慮がなされています。韓国人選手は骨格が太くて、フィジカル的にも強いと言われますけど、それは環境面によるところが大きいと思いますね」

 今回のE-1選手権には、大田からもGKイ・チャングン、右ウイングバック(WB)のキム・ムンファン、ボランチのキム・ボンス、追加招集のベテランFWチュ・ミンギュの4人が選ばれている。彼らもそれぞれのストロングを持ち合わせた面々だ。吉田氏はフィールドプレーヤーの3人について説明する。

「中国戦でゴールを挙げたチュ・ミンギュは34歳。韓国代表入りが30代になってからという遅咲きの選手ですが、前線で力強くターゲットになれるFW。今季のKリーグでも活躍しています。キム・ボンスは最近まで兵役に行っていて、1か月前に戻ってきたばかり。韓国の場合、軍隊に行っている間は金泉尚武でサッカーのトレーニングをしっかりできるので、コンディション的にも問題ありません。ボランチで安定した配球ができる選手で、今大会もいい味を出していると思います。キム・ムンファンは95年生まれの今年30歳。彼もまたベテランですが、2023-24シーズンはカタールのアル・ドゥハイルでプレーしていて、国際経験もあります。個の打開力も高く、コンビプレーも得意。優れた選手だと思いますね」

大一番の日韓戦へ「このあたりの選手がキープレーヤーになる」

 さらに吉田氏は、その他の注目選手にも言及する。中国戦でリスタートから得点したDFキム・ジュソン(FCソウル)、今大会背番号10を背負うMFイ・ドンギョン(金泉尚武)、香港戦でゴールした大型FWイ・ホジェ(浦項)、そして21歳MFカン・サンジュン(全北現代)の4人に加え、今季Kリーグで12ゴール2アシストと大活躍中ながら、大会直前に辞退してしまったFWチョン・ジヌ(全北現代)の合計5人をピックアップしていた。

「チョン・ジヌはホン・ミョンボ監督も信頼を寄せている25歳のアタッカー。今回参加できなかったのは非常に残念です。その分、イ・ホジェやイ・ドンギョンら攻撃陣には日本戦での活躍が期待されています。イ・ホジェは韓国人らしい力強いストライカー。イ・ドンギョンも国内組ではかなりいい選手と言われていて、中国戦でも先制点を奪っています。カン・サンジュンも2列目を担う成長株。韓国の場合は兵役に1年半行かなければならず、彼も今後のキャリアがどうなるか分かりませんが、注目すべき才能の1人です。DFのキム・ジュソンも非常に安定していて守備陣の主軸を担うのは間違いない。このあたりの選手がキープレーヤーになるのではないかと見ています」

 吉田氏が解説するとおり、今回の韓国代表は想像以上のタレント集団。ホン・ミョンボ監督も永遠のライバルである日本には絶対に負けられないと考えているはずだ。だからこそ、森保一監督率いる日本代表も、これまでとは違う覚悟と集中力で臨まなければならない。これまでの2連勝を一度リセットし、新たな気持ちでタイトルを決するビッグマッチに向かうこと。それが日本の大会連覇の絶対条件だろう。

 現在は韓国で指導者として働く吉田氏も、両国が互いに力を出し切る白熱の好ゲームを心から期待している。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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