原口元気が抜け出せない苦境 328分0ゴールの訳…「2年くらい上手くいってない」

浦和の原口元気【写真:徳原隆元】
浦和の原口元気【写真:徳原隆元】

今季リーグ戦のスタメン出場はわずか1試合

 4月13日の町田ゼルビア戦から5月3日の東京ヴェルディ戦にかけて5連勝を飾り、一時は首位浮上が見えてきていた浦和レッズ。しかしながら、5月6日のガンバ大阪戦で0-1と黒星を喫し、11日のアルビレックス新潟戦も1-1のドロー。直近2試合で足踏みし、首位・鹿島アントラーズとの勝ち点差が8に開いてしまった。

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 試合消化数は鹿島と同じ16だが、6月にFIFAクラブワールドカップ(W杯=アメリカ)を控える彼らは、17日のFC東京戦から6月1日の横浜FC戦まで再び5連戦を控えている。4~5月の連戦もホーム・埼玉スタジアムでのホームゲームが続いたが、この5連戦も5月24日の名古屋グランパス戦以外は関東開催。条件的には恵まれている。ここでポイントを重ねてアドバンテージを得られるか否か。それが夏以降の戦いに大きく左右しそうだ。

 重要な5連戦に向け、奮起を期しているのが、9日に34歳のバースデーを迎えた原口元気だ。ご存知のとおり、10年間のドイツでのキャリアに一区切りをつけ、2024年9月に古巣・浦和に復帰したものの、昨季は10試合出場1ゴールと納得いく結果を残すことができなかった。

 その悔しさを脳裏に刻みつけ、「キャリアを賭けた勝負の年」と位置づけた今年は年明けから走力強化や肉体改造に全力を注ぎ、万全の態勢で今季を迎えたはずだった。が、ここまでは15試合出場ノーゴール。先発は3月2日の柏レイソル戦1試合のみで、トータルの出場時間は328分にとどまっているのだ。

「ここ数年、2年くらいかな……、自分自身、うまくいっていないんで、何とか今年は変えたいですね。32くらいまではある程度のことはうまくいっていたけど、ホントに2年くらい思い描いている感じになっていないので。34歳になった今はここからもう1回、復活できるようにしたいです」と本人も節目のタイミングで新たな決意を語っていた。

苦境に陥った要因とは?

 今季の原口がなぜ、ここまでの苦境に陥ってしまっているのか……。要因はいくつか考えられるが、マチェイ・スコルジャ監督が攻撃陣を固定起用している点が1つあるだろう。

 シーズン開幕直後の浦和は、チアゴ・サンタナが1トップに陣取り、2列目に金子拓郎、松本泰志、マテウス・サヴィオが並ぶ形がスタメン組だった。原口は停滞した状況で流れを変えるジョーカー役を託されたが、周囲との連携面の問題もあって、ゴールに直結するプレーを見せられず、スタメン奪取には至らなかった。

 3月以降、チームが上向き始めると、指揮官は1トップ・松尾佑介、金子・渡邊凌磨、マテウス・サヴィオの2列目という攻撃陣で完成度を引き上げようとしていく。実際、彼らの連動性と流動性は素晴らしく、5連勝という結果もその成果だろう。

 となると、原口が投入されるのは試合終盤。役割は主にクローザーだ。「この状況で違いを出そうとしても難しい」と本人もたびたび苦渋の表情を浮かべていたが、守備的なタスクを担って15分足らずの仕事ということになると輝きを放つのは難しくなるのだ。

 3月28日のセレッソ大阪戦、4月20日の横浜F・マリノス戦で2つのアシストを記録したものの、ゴールを取れなければ、序列が上がらないし、出場時間も延びない。彼自身も現実の厳しさを痛感しているに違いない。

 もう1つの要因を挙げるとしたら、原口自身がサイドでのドリブル突破に強くこだわっている点だろう。

 30代半ばの乾貴士(清水)や宇佐美貴史(G大阪)もかつてはドリブラーだったが、今は中央にポジションを移して、高度な技術やアイディア、駆け引き、フィニッシュワークで勝負している。彼らより年長の家長昭博(川崎)も、スタートポジションこそ右サイドだが、中盤から前線にかけて自由自在に動き、フィニッシュに絡む効果的なプレーを見せている。

 原口も彼らのようにプレーの質を柔軟に変化させつつ、ストロングを発揮できればいいのだが、もともと推進力とダイナミックさが売りの選手だけに、シフトチェンジがスムーズには行かないのだろう。

「乾君もどっちかというと真ん中に入っていってるし、真司(香川=C大阪)君もボランチになったりして、真ん中寄りになってる傾向はありますね。でも自分がそっち側のタイプで生きてきたわけではない。インサイドハーフやったり、いろんなポジションやってきましたけど、『もう1回ウイングで切り込んでって点が取りたい』っていう思いも強いので、そこに今、フォーカスして、身体もドリブルもいろんなものを取り戻そうとしてるっていう感じです」と本人も現状を説明していた。

プレーの幅を広げていく作業も必要か

 若い頃のようにスピードで押し切る路線を突き進むのであれば、ドリブルに磨きをかけ、一目散にゴール前まで持ち込んで、仕留め切るだけの走力・迫力・決定力を示さなければいけない。直近の新潟戦もゴール前の決定機で味方にパスしたシーンがあり、「あれは振れましたね……」と原口は悔やんだが、そこでシュートという選択が自然とできるようなメンタル・フィジカル両面の準備を今一度、行っていくことが肝要だ。

「若い時だったら何も考えずに振ってた場面でも、いろんなことを考えてると難しくなってしまう部分もある。もう少しシンプルにゴールに向かっていくっていう考え方も大事だなと思います」と彼は静かに語り、頭の切り替え作業を進めていく構えだ。

 それと同時に、駆け引きやクレバーさで相手の裏を突くような賢いプレーも増やしていく必要がある。乾や家長はそれができるからこそ、40歳近くなっても異彩を放っていられる。原口自身もそのことを誰よりもよく分かっているはずだ。

「昔は自分の方が速かったり、クイックネスが高かったので、敵と正対してしまえばいけるっていう自信があったんで、1対1の時に難しいことは考えてなかった。けど、今は純粋なスピードが落ちてしまっているんで、うまく相手との駆け引きでやっていかなきゃいけない。新しく自分を作っていかなきゃいけない感じはします」とも本人は発言。プレーの幅を広げていく作業も並行して進めていくつもりだ。

 もがき苦しむ34歳のベテランに対する風当たりは正直言って、厳しい。SNS上では「試合に使わなくていい」といった辛辣な書き込みも散見される。その逆風を跳ねのけていくためにも、まずはゴールという結果を残し、力強い一歩を踏み出すしかない。

 今の浦和は総得点数が18と上位陣の中では数字的に物足りない部類に入る。その現状を背番号9が率先して打開してくれれば、誰も文句を言わなくなる。「原口元気、ここにあり」を、ここから示せばいいのだ。

 6月のFIFAクラブW杯で2022年カタールW杯に立てなかった悔しさを晴らすためにも、今月中に序列を引き上げておかないと間に合わない。本人も危機感を募らせているに違いないが、誕生日を機に一気にギアアップを図りたいところ。原口の完全復活を待ちわびている人々は少なくない。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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