鹿島の指揮官に求める「打開策」 鈴木優磨は消耗、アイデアは“マンネリ”…再建に手腕の見せ所【コラム】
【カメラマンの目】疲労が蓄積しているエース鈴木…終盤に調子を戻せるか
試合終盤を迎えて、鹿島アントラーズのフォワード(FW)鈴木優磨が仕切りにふくらはぎの部分を伸ばしている姿が目に留まり、カメラを向けてシャッターを切る。強気な姿勢を貫く鈴木なだけに、あからさまに表情には出さないものの、疲労していることは明らかだった。鈴木の姿は、9月28日のJ1リーグ第32節湘南ベルマーレ戦に限らず、最近の鹿島のチーム状態を表していたと言えた。
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湘南対鹿島の一戦は、J2降格を阻止するため、なんとしても勝ち点が欲しいホームチームの攻勢で始まった。鹿島は早いテンポでボールを回してくる湘南の攻撃の前に守勢となる。
しかし、鹿島は今シーズンの武器であるタイトな守備で湘南に最終局面を割らせず、攻撃に転じれば右サイドバック(SB)の濃野公人の2ゴールで試合を上手くコントロールしていく。
ただ、試合は簡単には終わらない。試合展開は湘南の闘志に誘発されて激しさが増し、局面での潰し合いとなって多くの場面でボールはスムーズにつながらなくなる。そうした消耗戦の状況で、鹿島は湘南の攻撃に対してマークが甘くなっていき、ゴールを許していく。最後は逆転を許し2-3の敗戦を突きつけられたのだった。
この敗戦によって鹿島はリーグ優勝の争いから大きく後退。チームの雰囲気を見ても、優勝を目指すには難しい状況に追い込まれた。
振り返れば、今シーズンの鹿島の指揮官にランコ・ポポヴィッチの就任が伝えられると、Jリーグで大きな成果を挙げていない彼が、常勝への再建を目指すチームの先導者として、果たして適任者なのかという疑問がまずよぎった。
しかし、シーズン開幕前の宮崎キャンプを取材し、リーグ戦の戦いぶりを見ていくと、そうした疑問の色は薄まっていく。ランコ・ポポヴィッチはチーム構築にあたって、自信が志向する攻撃的なサッカーに固執せず、守備面での1対1の場面での勝負に強いこだわりを見せる、安定感のある戦い方を選択する。
この選択は賢明な判断だったと思う。リーグ序盤は不安定な戦いも見られたが、徐々にチームを纏め上げ近年、鹿島を取り巻いていた閉塞感から脱することができるのではないかという期待を抱かせた。
ただ、長丁場のリーグ戦ではシーズンに上手い形で入れたとしても、最後まで好調をキープし続けられるとは限らない。調子を落とすこともあり、そうした状況での修正が指揮官としての手腕の見せどころになる。
実際、重要な局面に突入したリーグ後半戦で、鹿島の堅固な守備からボールを奪い、鈴木を中心として素早く攻撃に転じるサッカーは通用しなくなり、なんらかの手を打つ必要に迫られている。
それにもかかわらず現状を見る限り、ポポヴィッチ監督には調子を落とした状態から脱するためのフォーメーション変更や選手起用において、アイデアを欠いていることは否めない。この試合でも最近の低調な内容にテコ入れもせず、いつものメンバーで臨んでいる。後半の劣勢に対してもベンチに控えていた外国人選手を次々と投入したが、戦略的意図はあまり感じられなかった。
苦境下で重要な指揮官のアクション
話は湘南対鹿島戦から逸れるが、この試合の前日に川崎フロンターレ対アルビレックス新潟戦を取材していた。川崎は近年のリーグを牽引してきたチームだが、今シーズンは低空飛行が続いている。選手の移籍や怪我などのマイナス要素を抱えながら、結果を出そうと現有戦力でなんとかやり繰りしている状態だ。
そして、鬼木達監督はこの対新潟戦で、従来の華麗なパスサッカーを表現するには、得意としているプレーが異なる、パワーファイターのエリソンと山田新を2トップとして起用する。しかし、フィジカルに秀でた選手を多用したからと言って、川崎のこれまでのパスサッカーが姿を消したわけではなかった。マルシーニョのドリブル突破によるスピードと2トップのパワープレー、そして従来のパススタイルが上手く融合し5-1の大勝を飾っている。
チームに変化が必要なときに、新たなシステムや従来のレギュラーではない選手を抜擢したとしても、必ずしも成功するとは限らない。そうしたモーションは賭けといった部分もあるだろう。ただ、チームが苦境に立たされているのであれば、指揮官は現状のスタイルや選手での復調を待つのではなく、なんらかのアクションを起こすべきであると思う。
翻ってポポヴィッチ監督の采配には、鹿島の勢いが下降線にあり勝利から遠ざかっているにもかかわらず、先発メンバーやフォーメーションにこれといった打開策を見ることができない。
試合に臨むまでのメンバー構成やフォーメーションだけでなく、試合中の決断でも決定打が少ない。湘南戦においてフィジカル面で言えば前半は激しくプレーできていたが、後半は長所の消し合いとなる展開で息切れし3失点を喫した。終盤に鈴木が足の具合を気にしていたことからも、疲労を感じていたことは明らかだったが、彼を最後まで交代させることはなかった。
鈴木に限らず今シーズンの鹿島は、ボールを持った相手に素早く、さらに激しくアプローチすることが求められているため、瞬時の状況判断と強い意志、そして豊富な運動量が必要とされ選手たちの消耗も大きい。適切な選手交代が重要となるが、ポポヴィッチ監督には効果的なベンチワークがあまり見られないのが現実だ。
最近の流れを打破するアイデアと選手のコンディションの配慮にも欠ける、この状態が続くのであれば、やはりポポヴィッチ監督はタイトル獲得のためのチームマネジメントはできない、そこまでの指導者と言わざるを得ない。
一貫したスタイルの追求は必要だが、チーム状態が下降している今、ポポヴィッチ監督には選手起用やシステム変更において、鹿島の根幹を作る際に自らの信念である攻撃サッカーに固執しなかった柔軟性を再び見せて欲しい。
なにより失敗を恐れない勇気を持ってもらいたいところだ。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。