なぜ黒田監督の発言は響くのか J1町田のキーマンが語る「伝わる言葉の選び方」の真相【インタビュー】
仙頭啓矢は史上3人目となるJ1の異なるチームで4年連続開幕戦スタメン
FC町田ゼルビアは、昇格組でありながら、J1リーグ前半戦18試合を消化して首位をキープ。J1初挑戦・初優勝の快挙も夢ではない。黒田剛監督の下、快進撃を続けるチームのなかで、プロ8年目を迎えた29歳のMF仙頭啓矢が絶妙な輝きを放っている。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小田智史)
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仙頭と言えば、京都橘高で3年時に高校サッカー選手権で準優勝の成績を収め、2トップを組んだ1学年後輩のMF小屋松知哉(現柏レイソル)とともに大会得点王(5得点)を獲得した技巧派アタッカーだった。
その後、東洋大を経て、2017年に京都サンガF.C.(当時J2)に加入。開幕戦のモンテディオ山形戦に途中出場してJリーグデビューを果たすと、その後はスタメンにも名を連ねたが、5月以降は一転してベンチ入りするも出番なしやベンチ外が増え、シーズン終盤の9月に定位置を確保した。1年目の成績は24試合5得点。“明暗”を味わったルーキーイヤーの経験は、プロ人生の大きな糧になっていると仙頭は振り返る。
「1年目はありがたいことに開幕から数試合出させていただいたんですけど、夏場にかけてはメンバー外になる期間もあって、すごく悔しい思いをしました。ただ、自信を失わずにやり続けて、シーズン終盤にはスタメンで出るようになった。『苦しくても腐らずにやっていれば、見てくれている人はいるんだな』というのを実体験できたのは大きくて、嬉しさと悔しさの両方を味わえたのは、のちのサッカー人生においてすごく財産になっています」
京都で3年間プレーし、2020年に横浜F・マリノスに移籍したが、自身初のJ1挑戦はリーグ戦3試合の出場にとどまり、同年9月には古巣・京都に期限付き移籍。その後は21年にサガン鳥栖、22年に名古屋グランパス、23年に柏レイソルと渡り歩き、今年から町田の一員となった。
今季はJ1初昇格の町田で、出場停止を除いて17試合に出場。史上3人目となるJ1の異なるチームで4年連続開幕戦スタメンという記録も刻んだ。所属チームが変わっても、ピッチに立ち続けられている理由について、仙頭は「まず、キャンプやプレシーズンで監督が求めていることをいち早く理解してそれを体現していくこと。そして、プラスαで自分を獲得してくれたクラブから何を求められているかを整理して、表現していくことは意識しています」と話す。
ボランチ起用で目覚めた守備の楽しさ
高校時代の2トップにはじまり、1.5列目のシャドー、ウイングやサイドハーフと攻撃的ポジションはどこでもこなすユーティリティー性を武器とする仙頭だが、黒田監督率いる町田では、卓越した技術を生かしてリンクマン役を担うボランチを任されている。「シーズンをとおしてボランチを主戦場として戦うのは初めて」のなかで、仙頭はひと際輝きを放つ。
「今はボランチと言われることにも慣れました(笑)。本来僕はシャドーと言われるポジションとかをやってきましたけど、求められていることをやりつつ、自分の特徴を忘れないように、と思っています。チームが結果を残しているなかで、自分がしっかり試合に出ているのはいい部分。でも、たくさんいい選手がいるので競争に勝たないといけない。すごくやりがいがあります」
これまでも守備は自分の課題の1つと捉えていたが、ボランチとしてプレーすることで、守備の楽しさに目覚めたという。
「現代サッカーにおいて守備は絶対に求められる部分。そこに向き合わないといけないというのは自分の中でもありましたし、プロになった時から課題とは向き合ってきました。そのなかで、このチームに来て(守備に対する)意識はさらに上がった。(ボランチのコンビを組む柴戸)海は“芝刈り機”と言われるくらい広範囲をカバーしてくれていますけど、役割を分けているというよりは、守備も攻撃もお互いがやっている。それがチームにとって大事なことだし、そこはいいバランスでできていると思います」
町田のサッカーを語るうえで「ハードワーク」は不可欠だが、現在ヘッドコーチを務める金明輝(キム・ミョンヒ)氏が指揮していた鳥栖で全試合に出場した経験を持つ仙頭は、その点で抜かりはない。
「ハードワークや切り替えは鳥栖の頃からも求められてきましたし、現代サッカーにおいて、そこを突き詰めないと勝つことはなかなか難しい。ハードワークでは相手に負けてはいけないし、それがあったうえでの戦術だと思っています。試合に出ている時の自分の役割、意味は理解しないといけないというのは伝わってきます。試合中、相手が対策をしてくるなかで、状況判断してプレーの選択をしないといけないというのは、僕も周りに発信していかないといけない」
黒田監督は「伝わる言葉の選び方」が秀逸
町田の選手たちは、チームを指揮する黒田監督を「徹底している」と表現する。いわゆる“町田のサッカー”が全体に浸透しており、仙頭も「チームとしてのベースがあるのは選手としてありがたいこと。監督が求めているものをできないと試合に出られない。誰が出ても町田のサッカーができるのがいい結果を残せている要因だと思います」と話しつつ、指揮官の特徴について感想を述べる。
「言葉は伝わってこそ意味がある。『1本中の1本』とか、“伝わる言葉の選び方”はすごく上手だと思います。徹底して伝えるのは伝える側も難しいとは思いますけど、緩みや慢心が見えそうになった時も隙を見せない声掛けをしてくれます。あとは、勝利への執念が凄いです。引き分けであろうと、負けたような雰囲気でチームが締まる。それは上を目指すチームだからこその空気感。選手たちも『やらなきゃいけない』という気持ちになる。勝つためには何をすべきか、練習から監督、コーチらスタッフ陣も空気感を作り出してくれるので、それが試合につながっています。ミーティングとかは高校時代の感じを少し思い出したりしますね(笑)。運で結果が出ているわけではなく、チームとして練習からやってきてきたことが実っているので、この雰囲気を続けていかないといけないと思います」
町田は前半戦で快進撃を見せたが、各チームとの2度目の対戦を迎える後半戦が本当の勝負とも言える。当然、対戦相手も対策を練ってくるからだ。
仙頭は「(身長194センチの韓国代表FWオ・)セフンがいる時は、1つのターゲットになるというのはチームとして武器です。そこだけになってしまうと相手が対策してくるので難しいですけど、優位性があるところをしっかり使っていくのは、サッカーにおいて大切なことだとリーグ戦を戦ってきて実感しています」と語りつつ、リーグタイトル獲得を目指すうえでは、さらなるレベルアップが必要だとも感じている。
「ただ蹴るのではなく、目的を持ってロングボールを使っているのがFC町田ゼルビアのサッカー。状況に応じて、セフンのような背の高い選手がいないとなった時には、しっかり自分たちからうしろからビルドアップして、ビルドアップも細かいパスをすることが目的ではなく、あくまでゴールを取るために何が最善策かと考えないといけない。状況に応じた最善策をチョイスしているので、本当に理にかなったサッカーだと思います。(対戦)2周目は相手が情報を持って分析してくるなかで戦うことになる。自分たちのベースである、戦うこと、ハードワーク、インテンシティーは絶対に失ってはいけないし、まずそこで相手を上回る。(チーム戦術の面から見ても)より1人1人がやれることを増やして、幅を広げていかないといけない」
個人としては日本代表、チームとしては国内三大タイトルの獲得が目標
充実したシーズンを過ごす仙頭もプロ8年目、今年12月には30歳を迎える。人々は時に彼を「遅咲きのボランチ」とも表現するが、「日本代表」の目標はまだ諦めてはいない。
「J1で華のある目立ったシーズンがあったというよりは、ありがたいことにチーム内で評価していただいてきました。ただ、フォア・ザ・チームの精神は前提のうえで、より上に行くためには分かりやすい結果も必要になる。日本代表は小さい頃から夢見てきた場所だし、『日本代表としてプレーしたい』という思いは引退まで持ち続ける。個人としての目標は日本代表、プラスでチームとしてタイトルを獲る。Jリーグ、ルヴァンカップ、天皇杯での優勝はなかなか経験できることではないし、達成できていないので、まだまだ志半ば。選手として未完です(笑)」
いずれ訪れるスパイクを脱ぐ時まで、仙頭はどこまでも貪欲に、真摯にサッカーと向き合い続ける。
[プロフィール]
仙頭啓矢(せんとう・けいや)/1994年12月29日生まれ、大阪府出身。京都橘高―東洋大―京都―横浜FM―京都―鳥栖―名古屋―柏―町田。J1通算118試合・5得点。J2通算118試合22得点。前線と最終ラインをつなぐリンクマン。攻撃的なポジションだけでなく、今季は自身初となるシーズンを通してボランチとして過ごしており、中盤ならどこでもこなすユーティリティー性を備える。
(FOOTBALL ZONE編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)