アジア杯で見えた新時代の予兆 意欲急騰のアジア…日本がW杯出場逸も JFAは厳しく検証を【コラム】

アジアカップベスト8で敗退となった日本代表【写真:ロイター】
アジアカップベスト8で敗退となった日本代表【写真:ロイター】

W杯出場枠拡大が導いた総体的な普及促進と新興国の躍進

 大陸全体のモチベーションの急騰が、如実に表れたアジアカップだった。

 参加24か国中で、2年前のワールドカップ(W杯)に出場した日本、イラン、オーストラリアを除く実に21か国が外国人監督を招聘。内訳は欧州から14人、アルゼンチン、韓国、アフリカからそれぞれ2人ずつ。タイが国内リーグで圧倒的な実績を残した石井正忠に命運を託したのは周知のとおりだ。

 W杯のアジア出場枠が「4.5」から「8.5」へ広がったので、とりわけ出場未経験国の意気込みが際立った。日本も1964年東京五輪の開催に合わせてデットマール・クラマー特別コーチを、Jリーグ開幕前夜の1992年には初めてのプロ監督ハンス・オフトを招聘し急速にレベルアップしたわけだが、アジアの多くの国々も似たような状況にあると考えるべきだろう。

 ビッグトーナメントへの門戸が広がると、一見今までより楽な競争になりそうだが、実際にはそうならないことは歴史が証明している。W杯を例に採れば、16か国で争われていた1970年代までは地域差が明白だった。

 1974年西ドイツ大会にアフリカ代表として初出場したザイール(コンゴ民主共和国)は、ユーゴスラビア(当時)に0-9、ブラジルに0-3、スコットランドに0-2と、1次リーグで完全な草刈り場になった。ザイールを下した3か国同士の対戦はすべて引き分けだったので、このグループはザイールから何ゴールを奪うかで順位が決まった。だがそれから半世紀近くを経て、ついに2年前のカタール大会ではアフリカ代表のモロッコがベスト4に進出している。

 また32か国が参加することになった最初の1998年フランス大会では、アジア代表の4か国で唯一の勝利はイランが米国を下したもので、3連敗の日本はもちろんすべての国がグループリーグ(GL)で姿を消した。さらに24か国が参加した最後の1982年スペイン大会の1次リーグでは、3点差以上の試合が4分の1を占めたが、36か国体制最後のカタール大会GLでは約10%と激減している。つまり出場枠の拡大は総体的な普及を促し、新興地域(国)の躍進を導くことになる。

世界一と大陸予選やGL敗退が意外なほど紙一重…それがサッカーの特性

 あるいは全国高校サッカー選手権も、1984年度からすべての都道府県の代表校が参加するようになった。この時と現在で試合数は変わらないが、1984年度は3点差以上が16試合あったのに対し2023年度は11試合に減少。逆にPK戦の数は、84年度の7試合から倍増している。

 ちなみに1984年度は、長谷川健太、大榎克己、堀池巧の三羽ガラスを揃えた清水東が準々決勝で9-0の大勝劇を創出するなど優勝候補が限定されており、準々決勝以降はPK戦が1つもなかった。しかし昨年度の大会では、決勝に進出した青森山田や近江も2回戦からPK戦を強いられているから、39年間で地域差は著しく縮まった。

 こうした現象を見ても、今回のアジアカップで日本が35年ぶりにGLで黒星を記録し、準々決勝で敗退したのは、W杯の出場枠が広く開放された新時代の予兆とも言える。まだ日本が大陸内で最も豊富な戦力を擁しているのは間違いない。ただしその優れた戦力の特徴を引き出し切れず、むしろ対戦相手に消されて苦しみ最終的には敗れてしまったのが今大会だった。

 今までは日本が「8.5」の出場枠を逃すことなど想像もできなかった。だがアジアの多くの国が意欲的な強化に取り組み右肩上がりの成長を見せていることを思えば、回を追うごとに「8.5」枠を巡る争いは厳しくなり、いつかは旧来の「4.5」枠の頃より、熾烈でハイレベルになる可能性もある。

 現世界王者のアルゼンチンも、2年前のカタール大会では初戦でサウジアラビアに敗れた。あるいは1986年メキシコ大会で2度目の優勝を果たした同国も、南米予選最終戦での土壇場の同点弾で辛うじて本大会への切符を手にした。要するに世界一と、大陸予選やGLの敗退が意外なほど紙一重なのが、サッカーの特性でもある。

 JFA(日本サッカー協会)はそれを十分に踏まえたうえで、アジアカップを厳しく検証したほうがいい。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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