「まだ壁にぶつかっている」 パリ五輪世代MF西川潤、理想と現実のギャップに感じた「悔しさ」と取り戻した自信【インタビュー】

今季リーグ戦21試合に出場した西川潤【写真:(C)SAGAN DREAMS CO.,LTD.】
今季リーグ戦21試合に出場した西川潤【写真:(C)SAGAN DREAMS CO.,LTD.】

プロ4年目の今季は開幕スタメンも…メンタル面の弱さから自信を喪失

 サガン鳥栖のMF西川潤は、桐光学園高時代から超高校級アタッカーとして将来を嘱望され、大きな期待を背負ってプロ入りした。Jリーグの舞台では思うように出番を得られず、プロの壁にぶつかるなかで試行錯誤の日々。苦悩しながらも一歩ずつ成長してきたパリ五輪世代の21歳が見据えるビジョンとは――。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小田智史)

   ◇   ◇   ◇   

 西川は桐光学園高で10番を背負い、キャプテンを務めた3年時にはインターハイを制覇。18年のU-16アジア選手権で大会MVPに輝くと、19年1月にはドイツ1部レバークーゼンの練習に参加した。同年には飛び級でU-20ワールドカップ(W杯)に選出、さらにU-17W杯ではエースとして日本を牽引し、超高校級アタッカーとして名を馳せた。

 しかし、2020年に正式加入したセレッソ大阪では、2シーズンでJ1リーグ計30試合1ゴール(プレー時間740分)。もともとは2トップの一角を担い、スピーディーなドリブルやセンスあふれるフィニッシュワークを武器とする勝負強いアタッカーだったが、本職とは異なるサイドハーフで起用されることも多く、プロの洗礼を浴びた。

 プロ3年目の2022年、鳥栖への期限付き移籍を決断。川井健太監督の元で、ハードワークやインテンシティー、オフ・ザ・ボールの動きを磨いてきた。レンタル期間を延長して臨んだ今季は、プロ入り後初の開幕スタメンを掴むなど、3試合連続で先発出場を果たしたが、徐々にベンチスタートやベンチ外の試合も増えていった。

 個人成績を見れば22年が14試合(535分/1ゴール)、今季が21試合(729分/0ゴール)。かつて世代ナンバーワンとも言われた男にすれば物足りない数字だ。西川自身も「満足いくシーズンではないと思います」と自己評価する。

「昨シーズンの後半戦はコンディションも良く、チームの役割の中で自分の特徴を出すプレーができていたと思います。今シーズンも開幕前までは手応えはありました。でも、実際にシーズンが始まって、自分のミスからの失点を引きずったり、自分の弱さ、課題が浮き彫りになって、自信を失って消極的なプレーが増えていってしまいました」

アーセナルで活躍するマルティン・ウーデゴール【写真:ロイター】
アーセナルで活躍するマルティン・ウーデゴール【写真:ロイター】

アーセナルMFウーデゴールが今の“教材”

 そのなかで、西川が「いい経験」と語ったのが、今年9~10月に中国・杭州で開催されたアジア大会にU-22日本代表の一員として出場したこと。大学生10人を含む22歳以下のメンバーで構成されたなか、2002年2月と早生まれの年長世代である西川は10番を託され、新境地とも言えるインサイドハーフで6試合中4試合に出場した。

「フィニッシュしたり、その1つ前のプレーが自分の特徴なので、トップ下、シャドーの位置が一番やりやすいのは事実です。でも、組み立てに関わるプレーができるのも自分の良さ。サイドハーフは代表で入ったのが初めてだったので、細かいポジショニングは改善しながらでしたけど、いい経験ができていると思います。アジア大会はJクラブ加入が内定している選手はたくさんいましたけど、実際にプロとしてプレーしている選手は少なかったので、立場的にも、スタメン起用してもらった意味で、中心としてしっかり引っ張っていこうという思いがありました」

 参考にしている選手も、プロ入り前は元ウェールズ代表FWギャレス・ベイルやアルジェリア代表FWリヤド・マフレズ(アル・アハリ)だったが、現在はノルウェー代表MFマルティン・ウーデゴールに変わった。

「ベイルやマフレズの時は、右サイドハーフでレフティーの選手を見ていましたけど、今はインサイドハーフやトップ下のレフティーの選手を見る機会が増えました。ウーデゴールは攻守においてハードワークして、めちゃめちゃ走っている選手でもあるので、個人映像を見ながら参考にしています」

西川は今後の飛躍に期待が懸かる【写真:Getty Images】
西川は今後の飛躍に期待が懸かる【写真:Getty Images】

憧れてきた五輪には「絶対に出場したい」

 将来を嘱望されたポテンシャルを考えれば、Jリーグでレギュラーを掴み切れてない現状は周囲の大きな期待に応えられているとは言えないだろう。西川自身、「プロ入り当初は、1~2年プレーして、すぐに海外へ行きたいと思い描いていました」と明かす。「理想と現実の違いがあるのは事実」と受け止めたうえで、“巻き返し”に闘志を燃やす。

「自分が悪いけど、まだ壁にぶつかっている。もちろん悔しさはあります。でも、現状を考えると仕方ないかなと思います。アジア大会に出て、国際大会でしか得られない経験というか、いろんな思いを持ったチームと戦うことで、対戦相手をどうやって崩していくかを考えたりするのはいい経験でした。やっぱり国際大会っていいなって(笑)。やれるという思いもあった半面、まだまだだなと思うところもありました。自分の中でやらなければいけないこと、残さないといけないものがたくさんあるので、そこに向き合いながらやっていくことが大事だと思っています」

 西川は「もちろんA代表は目標の1つです」と野望を掲げつつ、開催まで1年を切ったパリ五輪のメンバー入りを見据える。

「オリンピックは一生に一度しかないし、憧れてきた大会でもあるので絶対に出場したい。年代別代表でメンバーに食い込んでいかない限りはA代表なんて程遠いと思うので、まずはオリンピックに出られるようにしていく必要がある。自分はプロに入ってから、1年をとおして満足いくシーズンを送れていない。しっかり目標を意識しながら、自分のチームで結果を残すことが大事になってくると思います」

 西川はまだ21歳。この4年間で壁にぶつかった経験は成長の糧となり、今後のキャリアにきっと役立つはずだ。

[プロフィール]
西川潤(にしかわ・じゅん)/2002年2月21日生まれ、神奈川県出身。桐光学園高―C大阪―鳥栖。J1通算66試合・2得点、J3通算1試合・0得点。かつてスペイン1部の名門FCバルセロナからの興味が伝えられたほどの卓越したテクニックとサッカーセンスは一級品。左足でのチャンスメイクには自信を持つが、鳥栖でハードワークや守備のメンタリティーも磨かれている。

(FOOTBALL ZONE編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)



page 1/1

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング