「自分の責任で負けた」 パリ五輪世代FW細谷真大、敗因を背負う姿ににじみ出るエースの自覚【コラム】
代表とは無縁だった10代からの大飛躍
来春にカタールで開催されるパリ五輪予選も兼ねたU-23アジアカップで日本、韓国、中国、UAEと同組なった。「死の組」とも言われる過酷なグループに入ったなかで、活躍が期待される1人がFW細谷真大(柏レイソル)だ。「FOOTBALL ZONE」ではパリ五輪世代にスポットライトを当てた特集を展開。エースとして期待される22歳の思考に迫る。(文=鈴木潤)
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U-22アルゼンチン代表との国際親善試合を目前に控え、U-22日本代表でトレーニングを続けていた柏レイソルの細谷真大は11月13日、2026年の北中米共催ワールドカップ(W杯)アジア2次予選に臨む日本代表の追加招集を受けた。彼にとっては、昨年7月のE-1選手権以来となるA代表である。そして細谷はミャンマー戦(16日/5-0)、シリア戦(21日/5-0)と、ともに途中出場で起用され、シリア戦ではA代表初得点を記録した。
今季J1リーグで5位タイの14ゴールを挙げ、来年のパリ五輪でも活躍が期待されるストライカー。だがそんな細谷も、10代の頃は代表とは無縁の存在だった。
ジュニア時代、柏レイソルのアライアンスグループの1つである柏レイソルA.A.TOR’82でプレーしていた細谷は、中学入学と同時に柏のアカデミーに加入した。TOR’82と柏U-12との練習試合では圧倒的な存在感を見せていたとあって、アカデミー内では「細谷真大が来るらしい」と同世代の選手たちがザワついたという。
2019年の春、柏U-18所属時に2種登録選手としてトップチームに加入し、高校生ながらJリーグデビューを果たした。当時の柏には、ケニア代表FWオルンガ(現アル・ドゥハイル)、ブラジル人FWクリスティアーノ(現ヴァンフォーレ甲府)、元日本代表MF江坂任(現蔚山現代FC)といったリーグでもトップクラスのアタッカーが揃っていたため、すぐに主力に定着できたわけではないが、プロ2年目の21年には、途中出場で流れを変えるジョーカーとしての地位を確立。FC東京戦やヴィッセル神戸戦では決勝点を決めるなど、徐々に頭角を表していった。そしてそんなJリーグでの活躍は、それまで無縁だった年代別日本代表の招集へとつながった。
2021年8月のU-20日本代表候補トレーニングキャンプを機に、同年10月のU-23アジアカップ予選を戦うU-22日本代表にも名を連ねると、以降はパリ五輪代表候補として常時メンバー入りを果たした。彼自身の中でも、パリ五輪は目指すべき明確な目標へと変わった。
スピードを生かした切れ味鋭い突破と強靭なフィジカルは、細谷の代名詞とも言うべき先天的な特長である。また、井原正巳監督が「高校生の頃から太々しかった」と冗談を混じえて話すように、何事にも動じない堂々とした性格の持ち主であり、柏U-18所属時にトップチームのプロ選手の中に入っても、まったく物怖じはしなかった。プロ加入当初はまだ荒削りだった彼の能力は、Jリーグでの試合出場を重ねるごとに練磨され、プロ3年目の22年には、ついに柏でレギュラーポジションを掴んだ。
上田綺世の動き出しや得点パターンを参考
ここから細谷は飛躍的な成長曲線を描く。ゴール前でのフィニッシュワークでは冷静さが加わり、元来の強みであるフィジカルもより強度が増した。それ以上に細谷の急成長を感じさせたもの、それは自覚と責任感の芽生えである。
敗戦後は、その試合がいかなる内容であろうとも、「自分の責任で負けた」と自らに矛先を向けた。自分が得点を決めていても「自分がもう1点取っていれば勝てた試合だったので、チームを勝たせられなかった責任を感じています」と敗因を一身に背負う言動は、エースとしての自覚と責任感がなければ口にはできない言葉だ。
さらに、細谷の責任感が増した出来事が、現在トップチームのコーチを務める大谷秀和の現役引退だった。
「タニさん(大谷)からは、ピッチの内外で教わるものが多かった。自分はどちらかというとプレーで引っ張るタイプなので、今度は自分がチームを引っ張るところに加わっていきたい」
20年間、柏を支え続けてきたレジェンドに代わり、自分がチームを引っ張っていかなくてはならない。その思いを抱いて臨んだ23年シーズン、細谷はベストヤングプレーヤー賞を受賞した昨年以上の凄みを見せた。開幕から下位に低迷し、不振に喘ぐ柏のなかで、細谷は孤軍奮闘の働きでチームを牽引した。最終的に彼が記録した得点数は、大迫勇也に次ぐ日本人2位タイの「14」。こうした細谷の活躍がなければ、辛くも残留を決めた23年の柏は、より厳しいシーズンを強いられていたはずである。
国内組が中心だったE-1の時とは異なり、海外組と一緒にプレーをしたアジア2次予選の日本代表は細谷にとって刺激的だった。帰国後、彼は代表で感じた率直な思いを言葉にした。
「日の丸を背負って戦う責任感は、アンダー世代以上だったので刺激になりました。なかでも上田綺世選手(フェイエノールト)の動き出しや得点パターンは自分も身につけたいと思ったので、そこは自分も盗んでいきたい。自分のモチベーションにもつながり、もっと責任感を出してプレーしていこうと思います。クラブでしっかり結果を残していきます」
クラブで結果を残し、その活躍の延長線上に代表がある。年代別日本代表に選出された2年前から、そのスタンスは変わっていない。
パリ五輪のアジア予選の組み合わせが決定した。相手は、韓国、中国、UAEである。難敵揃いだが、「自分たちの力を発揮できれば問題ない。大丈夫です」と本大会の出場権獲得に細谷は自信を覗かせた。
柏の絶対的なエースの座に君臨する彼は、そう遠くはない将来、活躍の場を海外へ移すことになるだろう。パリ五輪での活躍を経て、その先の未来ではW杯での躍動が期待される。底知れぬポテンシャルを秘める22歳。細谷真大がその名を轟かせるのは、これからだ。
(鈴木潤 / Jun Suzuki)