「優勝したわけじゃないのに」 名古屋イレブン歓喜の側で…カメラに収まった長谷川監督の笑みが意味したもの【コラム】
【カメラマンの目】国立開催のホームゲームで、名古屋が新潟に勝利
「別に優勝したわけじゃないのに」
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試合後、カメラの広角レンズに捉えた名古屋グランパスの長谷川健太監督は、サポーターたちが陣取るスタンド近くで黄色のビブスを着用したカメラマンたちに囲まれて写真に収まる選手たちを見ると、こちらに向かってそう言った。
しかし、優勝したわけではないという言葉とは裏腹に、名古屋の指揮官は選手たちが勝利に沸いているのと同様に、嬉しそうに目を細め笑顔を作っている。それほどこのアルビレックス新潟戦の勝利は価値あるものだったということだ。
J1リーグ第22節、名古屋はホームスタジアムを国立競技場とし新潟を迎えた。試合は激しい接触プレーの応酬となるタフな展開のなか、前半14分に華麗なパスワークから挙げた森下龍矢のゴールを守り切り、名古屋が3試合ぶりの勝利を挙げたのだった。
厳しい気象条件下でのプレーとなる夏場の試合では、ピッチで起こるすべての出来事に対してフルスロットルで力を注ぐことは難しい。選手たちの馬力をどの部分でより使うのかを考える、ペース配分が勝利のカギとなる。
そこで名古屋が最も力を注いだのは、後方でボールを回してチャンスを探る相手選手へのマークだった。前線から積極的に守備を行い、さらに中盤から後方でボールをキープする新潟の選手へと果敢にアタックし、FWへのパスの供給を遮断して決定的な仕事を許さない。
その展開が最も表面化したのが前半のプレー時間が少なくなった時だ。ボールをキープする新潟の選手を追い込み、前線への進出を許さない展開は試合としては膠着するが、名古屋が主導権を握っていることを表していた。
しかし、その後は一進一退の攻防が続く。名古屋の攻撃は得点こそ敵の守備網を完全に崩すファインゴールを作り上げたが、長い時間で稲垣祥や途中出場の米本拓司など中盤の選手が、新潟の攻撃の芽を摘むことに奔走したため、カウンターもFW陣だけに頼ることが多く、厚みのある展開を見せられなかった。後半15分のPKのチャンスをキャスパー・ユンカーが決められなかったことも接戦に拍車をかけることになる。
それでも名古屋は相手のパスサッカーを封じようと新潟の選手へと必死に食らいつき、リズムを作らせず最小得点差で勝利を奪取した。
厳しい激闘を制した達成感は試合終了のホイッスルと同時に爆発する。守備陣の選手たちから始まった健闘を称え合う熱波は、ピッチを離れてからより強くなっていく。サポーターと喜びを分かち合うと、勝利への感情が高ぶった選手たちは集合し、その弾ける思いをカメラマンたちの前で表した。
言うまでもないがこれからの夏場の試合は厳しい消耗戦となる。名古屋にとってプランを遂行し、苦しみながらも耐えた末に生み出された新潟戦の勝利は価値ある1勝となった。カメラに向かって笑顔を作った長谷川監督の表情からは、これから1か月以上に渡って厳しい気象条件のなかで試合をすることになる夏場の戦いに向けて、手応えを感じたように見えた。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。