J1上位陣に「脱ポゼッション」傾向 好発進の神戸&名古屋、苦戦スタート川崎…序盤戦の“明暗”を読み解く

序盤戦で神戸が首位、名古屋が2位につけている【写真:Getty Images & 徳原隆元】
序盤戦で神戸が首位、名古屋が2位につけている【写真:Getty Images & 徳原隆元】

【識者コラム】ボール保持率データとリーグ成績から見る序盤戦の傾向

 今季J1リーグ序盤戦を経て、上位トップ2にはヴィッセル神戸、名古屋グランパスが君臨する一方、王座奪還を狙う川崎フロンターレは現在10位タイと苦戦。好発進したチームと苦戦スタートを強いられたチーム、両者の差とは何なのか。ここまでのスタッツデータに着目しながら序盤戦の“明暗”を読み解く。

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 冒頭に言っておきたいのは序盤戦の勝ち点や順位がフルシーズンの結果を保証するものではないということ。あくまで春先の評価として進めたいが、データ的に、現時点でボール保持率が高いチームのほうが苦戦しているというのは認めざるを得ない。

 開幕6試合の平均ボール保持率を見ると、一番高いのは川崎フロンターレの58.9%、2番目が横浜FCの58.2%、3番目はガンバ大阪の56.0%となっている。川崎は現在10位タイだが、周囲の期待を考えればここまで苦しい序盤戦と言えるし、横浜FCは17位、G大阪が16位なので、ボール保持率と反比例するような結果になっている。

 その一方で、ここまで5勝1敗で首位に立つヴィッセル神戸のボール保持率は47.9%で12位とアベレージを下回っており、2位の名古屋グランパスが最も低い43.9%、3勝2分1敗で5位と好調のアビスパ福岡も名古屋に次ぐ44.8%だ。リーグ最下位の柏レイソルがボール保持率も3番目に低い45.3%なので、あくまで傾向ということだろう。

 こうしたケースが起きている背景について、リーグ首位の神戸とポゼッション率トップの川崎をサンプルとして詳しく見ていくと、神戸のシュート数は66本で、川崎の58本より8本多い。一方、神戸の被シュート数は43本で、シュート数と被シュート数の差は23本。川崎のそれは61本で、シュート数よりも多くなっている。

 ボール保持率が低くても、シュート本数が多いというのは一般的にイメージしやすいだろう。つまり、それだけ攻撃の時に効率よくゴール前までボールを運べて、シュートに持ち込めているということだ。ただ、ボール保持率が高い側のほうが被シュート数が多いというのは従来の認識とあまりリンクしないかもしれない。

 神戸に関しては4-3-3の中盤が齊藤未月、山口蛍、大崎玲央の組み合わせか、齊藤がアンカーに落ちて、井出遥也がインサイドハーフに入るというユニットで、前からボールを奪い、素早く3トップに配球したり、左右のサイドバックに前向きのパスを付けるシンプルな形が整理されている。個人のデュエルがベースにあるのは間違いないが、高い位置でボールを奪ったらうしろでつなぐよりも、前選択をしていく意識がチームに共有されていることが、こうしたデータにも表れていると言える。

 前線と中盤が高い位置でボールを奪いに行くのにディフェンスラインも連係しており、山川哲史と新加入の本多勇喜が、サイドバックと協力しながらハイラインで耐えることにより、相手をシュートエリアに行かせない。それを90分やり切るのはほぼ不可能だが、そうした時間帯を多く取れているのは中途半端にボールを奪われる回数が少ないからだろう。

 神戸と福岡、そして名古屋の3チームに共通するのは効率よく攻め切る攻撃と守備が噛み合っている結果とも言える。ただ、名古屋はシュート数が61本で被シュートは58本と、神戸ほどの差はない。そこを埋めているのはJリーグで1、2を争う堅牢さを誇るセンターバックとGKランゲラックの存在だろう。ただ、中盤でボールを動かすよりも、前線のタレントを生かして早く前にボールを運ぶという基本的なベクトルは神戸と共通する。

 福岡の場合は神戸や名古屋より守備的な度合いが強く、シュート数は45本で被シュート数は43本。得点は6、失点が4なので、ロースコアで粘り強く勝ち点を拾っていくスタンスは昨シーズンからあまり変わらない。ただ、5-4-1のシステムで自陣に蓋をする時間帯と前に出て迫力ある攻撃に出ていく時間帯を上手く使い分けるゲームコントロールができているので、チームが壊れるリスクがほぼない。

横浜FMと川崎は高いボール保持率を維持【写真:徳原隆元】
横浜FMと川崎は高いボール保持率を維持【写真:徳原隆元】

夏場以降、“ボール保持率”を確保することが勝率に比例する可能性も

 ボール保持率が高いか低いだけで良し悪しを結論付けるべきではないが、別のデータや試合内容と掛け合わせることで、傾向というのは見えてくる。例えば、最下位の柏が3番目に低いボール保持率で、シュート数が44本、被シュート数が58本、そこにマイナス14本の差があるというのは現在チームがうまく噛み合っていないことの表れだろう。シュート数が44本で3得点は少なすぎるし、被シュート数58本で11失点は多すぎる。ここに関しては“両ボックス”のクオリティーを見直す必要があるかもしれない。

 今回データを見ていて少し驚いたのが昨季王者の横浜F・マリノスだ。ここまでボール保持率は52.1%とリーグで5番目に高く、平均値を上回っているが、F・マリノスにしては低いと思うファンが多いのではないか。ここまで8得点で7失点と何とかプラスにとどめているが、シュート数は54本で、被シュートが65本。11本も多くシュートを打たれている。

 1つ1つの試合を振り返ると、サンフレッチェ広島戦(第3節/1-1)で後半に永戸勝也が退場して1人少なくなったり、川崎との開幕戦で前半のうちに2点をリードし、現実的な戦いで勝ち点3を取るなど、より“大人のサッカー”をする傾向が出ているが、それにしてもF・マリノスの基本スタイルを考えれば、ボール保持率が下がることが良いこととは捉えにくい。

 その一方で、ボール保持率が3位(56.0%)である一方、リーグ16位のG大阪はシュート数が66本、被シュート数が63本でその差はプラスだが、得失点差はマイナス8となっている。総得点7はそれほど悪くないが、総失点15の大半は自らのミスが招いているものだ。ただ、ダニエル・ポヤトス監督が就任して1シーズン目なので、ボールを動かして攻めるスタイルを構築しているプロセスであり、辛抱強く見守るべき段階でもある。

 チームによるディテールの違いはあるにしても、全体的な傾向として、高い位置でボールを奪って、素早く縦に攻めるという戦い方をしているチームのほうが、ここまでは上位に来ているのは確かだ。ただ、連戦が入ってくるなかで、夏場になると“非保持”を運動量でカバーするのが厳しくなる。そうなると“ボール保持率”を確保することが勝率に比例してくるかもしれない。

 先月、日本代表と戦ったコロンビアがそうであったように、ハイプレスでなくても、相手にプレッシャーのかかる守り方はあるが、日本ではあまり浸透していない。序盤戦で上位に来ているチームが上手くいっている時に変える必要はないが、長いシーズンを安定して戦うにはアレンジも求められてくるだろう。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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