名前の呼び合いで新生・日本代表サバイバルレース開始 リーダーの資質を示したのは?

海外組も帰国しチームに合流【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
海外組も帰国しチームに合流【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

【識者コラム】ベテラン長友佑都の不在で「鳥かご」は静か

 森保一監督率いる日本代表は3月21日に海外組も全員帰国し、いよいよチームが揃った。ただし、久保建英は新型コロナウイルスの陰性判定が出なかったためホテルで自主隔離となり、前田大然は3月8日のリーグ戦で左膝に打撲を負ったために別メニューとなった。

 練習開始前の森保監督の話が終わると、選手がジョギングを始めた。先頭には田中碧、板倉滉、町野修斗、遠藤航、三笘薫が並び、すぐうしろに伊東純也と鎌田大地が笑顔を見せながら続く。列を引っ張ったのはカタール・ワールドカップ(W杯)メンバーで、特に三笘に対して約1000人の親子連れから熱い声援が飛んでいた。

 帰国間もない選手たちは軽く身体をほぐして上がり、前日までに合流していたメンバーでのトレーニングが続く。その中でW杯の時とは明らかに違う雰囲気の場面があった。

「鳥かご」と呼ばれる、四角の中に「鬼」役の選手が入って外側の選手が「鬼」にボールを触られないようにパスを回すトレーニングの時、静かなのだ。原因は長友佑都の不在だった。長友は大声を出し、笑いを誘いながらチームを盛り上げていた。

 ただし、長友の大声には負けているものの、大きな声でカウントしたりかけ声を入れる選手がいた。声の持ち主は板倉で、同じグループのみんなに声をかけ続ける。板倉のムードメーカーであり、リーダーとなる資質を示した場面だったと言えるだろう。

 その後、長い時間を使った練習としては、4人または5人の3グループに分かれて、四角いコートの中に入ってパス交換をするという場面があった。それぞれのグループには代表歴の浅い選手が偏らないように入っている。

 3グループは入り乱れつつ、相手の名前を呼びながらパスを出していた。ほかのグループが邪魔になるので状況をしっかり把握しつつ、味方の名前と特徴を覚えていく。

 しばらくするとやや大きめのコートの中で、自分のグループの選手にパスしたあと、パスを受けた選手は別のグループの選手の名前を呼びながらパスを出すというトレーニングに変わった。

若手の瀬古歩夢は「正直チャンス」と意欲

 選手の名前を呼びながらパスを出すというトレーニングは、お互いを覚えるのによく使うメニューだ。パススピードやコートの狭さというレベルは違ったとしても、日本代表でも同じことが行われている。つまり、それだけまだお互いを知らない選手たちということになるだろう。

 そんななかで生き残る選手は覚えられるだろうし、招集されなくなった選手は忘れ去られていく。一見和気あいあいとしているように見えるトレーニングだが、瀬古歩夢は「(ベテラン勢が抜けて)正直チャンスだ」「自分が食い込んでいけるチャンス」と、虎視眈々と出番を待つ若手の心境を代弁した。

 守田英正は、「新しい森保ジャパンに向けて、僕も自分自身に1回集中したい」と競争を意識している。

 浅野拓磨は「自分も若い選手を見て、たくさん得るものあるなとは日頃から思っているので、負けてられない」「(立場を)守ると思っていたら、なかなか守れない世界。日本代表っていうのはそういうところ」と謙虚に語りつつも、「守るつもりがないというのは、代表にいるつもりがないというわけではない」と秘めたる闘争心を垣間見せた。

 いなくなる選手が若手とは限らない。W杯での活躍も関係ない。それを選手は分かっている。お互いの名前を呼び合ったところから、サバイバルレースが始まった。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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