約5000分の2となる異色の転身 30歳で引退→審判へ、セカンドキャリアで目指すサッカー界の普及と強化

審判としてサッカー界の普及と強化をより強く意識【写真:高橋 学】
審判としてサッカー界の普及と強化をより強く意識【写真:高橋 学】

「敗因を自分たちに向けていただけるようなレフェリング」を強く意識

 選手時代は、移動や食事などは、すべてをクラブが準備してくれたため、選手はプレーに専念することができた。対戦相手の分析についても、コーチングスタッフがまとめてくれた映像を見れば良かった。だが、審判員になってからは、事前の準備はすべて自分でやることがほとんどだ。

「ゲームは生き物だと思っているので、次に担当するチームであってもそこまで細かく映像は見ません。ただ、セットプレー、キックオフの仕方など、変わらないものは必ずチェックします。細かい話では、チームの過去5戦どのような戦績か。怪我から復帰する人は誰か。あとは入場者数も見て、チームはこういう課題があるのかなとか、会社としてどういう雰囲気かも感じたいと思っています。あとは選手の誕生日や最近お子さんが生まれたか、とかもチェックします。それは試合中の関係構築のためですね。自分が臨むゲームは、それくらいはやらないといけないと思っています」

 選手としてのキャリアを終え、さらに審判として、日本サッカー界の最高峰の舞台に携わっている御厨は、サッカー界の普及と強化をより強く意識するようになったと話す。

「普及という意味では、選手の引退後が重要になります。お父さん、お母さんは、プロのサッカー選手としてやっていた方々が、引退後にどのように進んでいくのかを見ています。プロサッカー選手になったけど、引退後は、どこで何をしているかも分からなければ、サッカーを習わせはしないでしょう。引退する選手が、どこで何をしているか。どういうことをしているかをきちんと示すことが、普及につながると思っています。少子化やコロナ禍の影響もあるとはいえ、10年前くらいからすると競技人口も20%くらい減っています。これはサッカー界の課題ですし、Jリーガーになって一度夢を叶えた人が、引退後にどう歩んでいくかを示す責任は、引退後もあると思っています」

 そして、もう1つの「強化」について、とにかく自身の競技力向上を考えれば良かった現役時代とは異なり、今はより多くの選手たちに影響を及ぼせる可能性があることを強く自覚していた。

「強化の点でベンチマークにしているのはFIFAランクです。僕が1試合レフェリングをして、代表がいきなり強くなるということはあり得ません。僕が考えているのは、どれだけ選手に納得してもらえるレフェリングができるか、です。具体的には、負けたチームが、レフェリングに納得しているかが大事だと思っています。チームや選手が負けた理由をレフェリーのせいにするのか、それとも自分たちに課題があると思えるのか。それによって次の試合へのプロセスは変わってきます。それが1年間積み重なれば、どれくらいチームとして、選手として、レベルアップするのかは、計り知れません。全員が納得するレフェリングは、なかなか難しいと思いますが、その試合の敗因を自分たちに向けていただけるようなレフェリングをしないといけないし、それがこの国のサッカーの強化になると思っています」

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