キーワードは「身体能力」と「自己主張力」 “育成のプロ”菊原志郎氏が感じた中国サッカーの実情

W杯予選の9節ではサウジアラビア相手にドロー決着【写真:AP】
W杯予選の9節ではサウジアラビア相手にドロー決着【写真:AP】

中国の“広すぎる国土”に対応する育成環境の整備は改善点

 ひと通り環境面の話を聞き終え、次は育成部分。菊原氏は中国サッカーに携わり、いったい何を感じたのでしょうか。

「私のいた広州城のアカデミーは年に1回セレクションをしており、優秀な選手たちを獲得します。中国では山東泰山と広州FCの育成機関が有名で、トップ層はここを目指したりもしますが、それでも優秀な選手たちが広州城に加入してくれます。私の在籍時にも何名もアンダーカテゴリーの中国代表に選ばれていました。そんな彼ら中国のトップ層を指導して感じたのは、身体能力と自己主張できる力は日本サッカーの子どもたち以上だということです」

 菊原氏は、身体能力と自己主張力においては、日本の育成年代の子どもたちよりも勝っている選手が多いと言います。

「中国サッカーはなかなかうまくいっていない印象があるかもしれませんが、育成年代においては大きな差はなく、むしろ中国が勝つ時もあります。例えば、2019年に大阪で開催されたU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジという国際大会で、広州城は2位という好成績を収めました。私も日々中国の子どもたちを指導しているなかで、身体能力や自己主張力では中国の子供どもたちのほうが優れていると感じました」

 そのように話す菊原氏ですが、では、なぜ身体能力に優れ自己主張もできる子どもたちが、カテゴリーが上がるにつれて力をなくしてしまうのでしょうか。質問を続けると、中国国土の大きさに関係する1つの問題が見つかりました。

「育成は時間がかかるという大前提はありますが、強いて改善点を挙げるとすると、レベルの高い試合が少ない現状があります。例えば、私のいた広州市には広州城と広州恒大という2大チームがあり、もちろん下部組織同士でもレベルの高い試合が行えます。しかし、広州の他チームとの試合では差が生まれすぎてしまうこともあり、他地域の強豪の下部組織との試合を希望しますが、やはり中国は非常に広いため(広州市がある広東省の面積だけでも約18万㎢で、日本国土面積の半分にあたる)隣町に行くのにもバスで何時間という世界で頻繁には行けません。そのため拮抗した試合の機会が少なく、カテゴリーが上がるにつれて伸び悩んでしまうことがあるかもしれません。中国サッカー協会も試合環境を良くしようと努力していますが、ここは改善が必要だと思います」

 ハイレベルな試合を毎週行うことが育成には必要不可欠であり、日本もプレミアリーグやプリンスリーグの整備など強化を続けてきました。国土面積の広さという中国ならではの問題を解決し、いかに高強度の試合環境を作り続けるか、ここが中国サッカー育成の鍵になってくるのではないでしょうか。

(久保田嶺 / Rei Kubota)



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久保田嶺

1991年生まれ、埼玉県出身。「Rouse Shanghai Co.,Ltd.」代表。日中スポーツに関する広告や選手/指導者のマネージメントを手掛ける。自身の中国SNSフォロワー数も40万人と中国サッカー界で一番有名な日本人として知られ、日本へ中国サッカー情報を発信する。

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