久保建英、マジョルカ“復帰”実現の背景 「1部残留の主役」へ、いばらの道を進む覚悟
【スペイン発コラム】マジョルカ在住記者が見た2年ぶり復帰の経緯とクラブ事情
日本代表MF久保建英がマジョルカへ再レンタル移籍、開幕戦で早速今季初出場を果たした。2年ぶりとなる“復帰”までの経緯、そして今後はどうなるのか――。現地で活動し、マジョルカの事情に精通する記者が展望する。(取材・文=島田徹)
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今年5月23日、昨季のスペイン2部リーグ、マジョルカのホーム最終戦でのこと。最終節を前に2位が確定し、1部昇格を決めていたチームを祝うイベントが行われた。そのすべてが終わり、ピッチから引き上げるアンディ・コールバーグ会長、強化担当ディレクターのパブロ・オルティスに対し、スタンドのファンが叫んだ。
「タケを獲ってくれ!」
マジョルカファンの中でのタケの認知度、評価は非常に高い。2019-20シーズンの活躍は記憶に新しく、同シーズン半ば過ぎに2部降格の恐れが現実的な展開にあって、一人気を吐き、最終的に19位に終わったチームを牽引した感があった。アトレティコ・マドリードや、リーグ優勝したレアル・マドリードといった明らかに格上のチームを相手に、敵2人、3人に囲まれてもドリブルを仕掛ける姿は頼もしささえあったし、ファンにとって消えかけの1部残留への希望のともしび自体が、当時18歳の日本人少年だった。
ただ、筆者はこの時点(今年5月)で、久保のマジョルカ復帰はおそらくないと考えていた。なぜなら自身この国のプロとして1年目にプレーした場所に戻るということは、日本で飛び級を重ねながらステップアップを果たし、さらなる高みを見据える選手にとってキャリアの「足踏み」――もっと言えば「一歩後退」にすらなり得ると思っていたからだ。
ところがその後に状況、選手の心境に変化があったのではないか。
久保、そして日本人サッカーファンにとっての失意も、マジョルカにとっては優位に働いた。仮に東京五輪で久保がもっと活躍し、チームがメダルを獲得していたとすれば、今夏のレンタル獲得戦線はさらに激化していただろうことは容易に想像できるし、他チームとの金銭面などの条件闘争になれば、今月に入って11年前の借金を完済したばかりのマジョルカにマネーゲームを戦うほどの体力はなかった。
島田 徹
1971年、山口市出身。地元紙記者を経て2001年渡西。04年からスペイン・マジョルカ在住。スポーツ紙通信員のほか、写真記者としてスペインリーグやスポーツ紙「マルカ」に写真提供、ウェブサイトの翻訳など、スペインサッカーに関わる仕事を行っている。