イニエスタが“異次元の凄み”も…神戸に生じた微妙なズレ 川崎の独走優勝にダメ押し?

イニエスタはフル出場するも無得点で浦和に敗れた【写真:Getty Images】
イニエスタはフル出場するも無得点で浦和に敗れた【写真:Getty Images】

【識者コラム】川崎の対抗馬だった昨季ACL組、誤算だった主力選手へのダメージ

 浦和レッズとヴィッセル神戸の一戦は、川崎フロンターレの独走優勝にダメを押すようなゲームとなったのかもしれない。

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 毎年リーグ制覇の大きな壁となるのがAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で、今後川崎にはウズベキスタンでの過密日程が待っている。さらに五輪が開催され、その五輪後には主力が移籍していく可能性も秘めている。まだ大どんでん返しの要素は残されていた。

 一方で追う立場からすれば、大どんでん返しが可能なのはACL不参加組に絞られる。やはり昨年のACLで相応の実力を示した神戸、FC東京、横浜F・マリノスを対抗馬と見るのが妥当だった。

 だが上記3クラブにとって誤算だったのは、昨年のACLのダメージが今シーズンに大きな影響を与えたことだった。特に助っ人勢のコンディション不良が顕著で、横浜FMはマルコス・ジュニオールやエウベルが不在の開幕戦で川崎と当たり、0-2で叩かれた。またFC東京もACLでの酷いファウルで故障したディエゴ・オリヴェイラやレアンドロの調子が上がらず、早々と脱落した。さらに神戸も昨年のACLでアンドレス・イニエスタが故障。大黒柱を失っての開幕となった。

 神戸の滑り出しが好調だったとは言い切れない。ただし、若い選手たちによる底上げが進み、主導権を握る試合はできていた。だが反面、勝利数(5)を引き分け(6)が上回るのを見ても、勝ち切れない傾向も顕著だった。そしてアウェーの浦和戦も、まさにその典型となった。

 前半の神戸は、まるで格の違いを見せるような試合ぶりだった。久しぶりに90分間のフル出場を果たしたイニエスタは、トップ下でスタートしながら再三ボランチの位置まで降りてビルドアップの起点となった。とりわけ光ったのがボール奪取の凄みだ。特に一瞬のコントロールの乱れを見逃さず、浦和の武藤雄樹からは3度もインターセプト。途中交代に追い込んでいる。またボールを奪った後に再度囲まれても、まったく慌てることなく保持し切ってしまう。スピードでは勝る柴戸海に奪われるシーンがあったが、そのまま追走するとすかさず体を入れ返してしまった。

 だがイニエスタが、こうして守備面でも異次元の凄みを見せつける一方で、とりわけ新加入のリンコンとのコンビには微妙なズレが生じていた。イニエスタが次の展開を読み切るスピードにリンコンが追いつかず、どうしてもワンテンポ動き出しが遅れる。結局神戸は計20回近くもペナルティーエリアに侵入しながら(浦和は7回=ともに筆者調べ)、枠内シュートを2回しか打てていない。逆に浦和は、それまで攻撃面では見せ場を作れなかった田中達也とキャスパー・ユンカーが、初めて訪れたチャンスを活かした。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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