“王国再生”に挑んだオーストラリア人指揮官、無念の退任 “長期プラン”が頓挫した理由とは?

財政面の問題から補強が進まず…一方で有望な若手の台頭には光明も

 一方、ピッチ外ではクラブと監督の双方にとって乗り越えることが難しい問題を抱えていた。

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 チームのベストプレーヤーだったドウグラスはプレシーズンの序盤でヴィッセル神戸に移籍し、クラモフスキーが就任してからは重要な選手の1人である松原后もチームを離れた。そのいずれも、適切に補填がされたとは言いがたい。フロントスタッフにも異動があり、クラブのスポンサーも新型コロナウイルスの影響を大きく受けた。

 チームのスカッドは高齢化が進み、クラモフスキーのサッカースタイルに合致する選手が多いとは言えなかったなか、パンデミックによりスポンサーが多大な損失を被ったことを考えれば、実力者をクラブに連れてくるのは難しいこととなった。

 エスパルスは、シーズン途中の補強を行わなかったJ1クラブの一つだ。その背景には、GK梅田透吾やMF鈴木唯人、MF成岡輝瑠といった選手たちが貴重な経験を積み、立田悠悟がクラブのリーダーとして花開きそうだったということがある。

 横浜FMでアンジェ・ポステコグルーのアシスタントを長く務めており、クラモフスキーは土台作りに2年以上がかかることは認識していた。シーズンを通して追求するプレーを継続するには、細かな戦術理解、オン・ザ・ボールとオフ・ザ・ボールでの動き、フィジカル面の水準が不可欠だからだ。

 ポステコグルーとクラモフスキーは同じ哲学を共有しており、決して妥協はしない。

 横浜FMはポステコグルーとの契約を1年目で打ち切ることもできた。しかしそうはせず、昨季にリーグ優勝という形で最高の報酬を得ることができた。1年目に苦しみ、2年目に開花の時を迎えた格好だ。それはまさにクラモフスキーが積み上げていた道のりであり、哲学を今一度積み上げ直すことになったのは、エスパルスと指揮官の両者にとって残念なこととなってしまった。

 短期的な結果が必要になり、プラン通りに事を終えられないということはある。一つ確かなのは、2020シーズンにかけがえのない経験を積んだ若手たちの存在により、清水には将来へ向けての財産が蓄積されているということ。同様に、クラモフスキーは攻撃的なアイデンティティーを積み上げ、サポーターに興奮を届けたいクラブにとって、選択肢になり得る。長期的にポジティブなアイデンティティーを作り上げることができるだろう。
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(スコット・マッキンタイヤー / Scott McIntyre)



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スコット・マッキンタイヤー

東京在住のオーストラリア人ジャーナリスト。15年以上にわたってアジアサッカー界に身を置き、ワールドカップ4大会、アジアカップ5大会を取材。50カ国以上での取材経験を持ち、サッカー界の様々な事象に鋭く切り込む。

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