リバプールで愛された背番号「20」の追悼録 「94分、ここはアンフィールド!」に宿る真髄

劇的なゴールでアンフィールドに熱狂をもたらしてきたジョタ
「94分、ここはアンフィールド!」
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この名台詞に聞き覚えのあるプレミアリーグファンも多いのではないだろうか。2023年4月30日に行われたプレミアリーグ第34節トッテナム戦で劇的な決勝弾が生まれた際の実況だ。
リバプールは前半に3点差をつけて圧倒しながらも、後半に連続失点。終了間際の後半アディショナルタイム3分には、土壇場で同点弾を叩き込まれてしまう。引き分け濃厚な展開に、ホームスタジアムが失意と静寂に包まれた1分後の出来事だった。ロングフィードのこぼれ球を拾った背番号「20」がペナルティーエリア左からグラウンダーのシュートをゴール右へと流し込むと、本拠地アンフィールドには地響きのような歓声が沸き起こった。
ポルトガル代表FWディオゴ・ジョタは、2020年にリバプールへと加入して以来、5年間にわたって、ここぞという正念場で決定的なゴールを奪ってきた。身長は178cmとセンターFWにしては小柄で、フィジカルが強いわけでも、足が速いわけでもなかった。しかし、相手DFの重心を逆手に取るステップワークは世界でもトップ・オブ・トップで、スペースのない守備網をスルスルと抜き去るドリブルからのゴールは、彼の真骨頂だった。
28歳と、選手としてもまさにピークの真っ只中で、新シーズンもリバプールにとって不可欠な存在となるはずだった。しかし7月3日、交通事故で死去という、あまりに信じがたいニュースが飛び込んできた。わずか11日前の6月22日に結婚式を挙げたばかりで、自身の公式インスタグラムにも妻と幼い子ども3人と撮影したウェディングフォトを投稿。5月にプレミアリーグの優勝トロフィーを掲げ、6月にはポルトガル代表でUEFAネーションズリーグ制覇を達成し、公私ともに幸せの絶頂にあるなかでの、突然の悲劇だった。
サッカー選手の事故死自体は過去にも何件か事例があるものの、リバプールというビッグクラブ、ポルトガル代表という強豪国で活躍する現役のワールドクラスの訃報は、前例にない事態と言っても過言ではなく、サッカー界全体に衝撃が走った。各方面からすぐさま悲痛なメッセージが送られていた一方、多くのチームメート、特にジョタと親しかったメンバーは訃報からしばらく沈黙が続いていたあたりにも、その大きすぎるショックが窺えた。現地報道によると、FWモハメド・サラーに関しては、急遽バカンスを打ち切り、即時イングランドへの帰還を手配したという。
遠藤にとっても心強い存在 サポーターに愛された背番号「20」
日本代表MF遠藤航にとっても、ジョタは非常に心強い存在だったはずだ。ベンチやハーフタイムのウォームアップでは、2人で談笑する光景も珍しくなかった。優勝パレードでは隣同士でツーショット写真を撮ったり、遠藤がジョタのタオルマフラーを許可なくサポーターへと投げ与えてしまい、それを目にしたジョタに怒られる姿も微笑ましかった。
そしてなにより、ジョタはサポーターに愛されていた。残りわずかな時間帯の出場でも、きっとチームを救ってくれる……。そんな期待を抱かせてくれる選手で、実際に何度も劇的なゴールを決めてきた。類稀なる攻撃センスを備えながら、負傷に悩まされるキャリアで、先発出場こそ限られていたものの、途中出場する際は、必ずサポーターから拍手喝采を受け、熱いチャントが送られていた。
「Oh, he wears the number 20, he will take us to victory(背番号20を身につける彼が、我々を勝利に導いてくれる)」
「he’s a lad from Portugal, better than Figo don’t you know, oh, his name is Diogo!(彼はポルトガル出身の青年で、フィーゴよりも上手いことをご存知ない? 彼の名前は、ディオゴだ!)」
ジョタはリバプールでの5年間で公式戦通算65ゴールを記録した。残念ながら、その数字が今後増えていくことは叶わない。それでも、幾度となく勝負どころで奪ってきたゴールが色褪せることは決してない。「You’ll Never Walk Alone(君は決して一人にはならない)」。リバプールを象徴する大合唱が、これからも「ここ、アンフィールド」よりジョタへと捧げられていくことだろう。