日大アメフト部問題は対岸の火事ではない サッカー界でも燻る“上意下達”の悪しき伝統
教え子を日常生活も送れない身体にした、高校サッカー部監督の無責任な言い訳
5年前に、高校サッカー選手権の優勝経験もある強豪高校の指導スタッフに取材をした。Jクラブのアカデミー出身で高校入学当初に大怪我をして、その後遺症に苛まれ退学した選手についてだった。
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あらかじめ取材の主旨を伝えていたので、学校職員なのに警戒して誰一人名刺も出さないし、ICレコーダーを見た監督の第一声が「そんなもんがあったら喋れんなあ」である。監督と複数のコーチが同席したが、コーチの方は質問を投げかけても、ほとんど意味ある発言をしていない。明らかに監督の前で下手なことは話せない、という空気が支配していた。
こうした現場では、コーチは生徒の前に出ると監督の威を借り、上級生も必要以上に権力を振りかざす。選手たちは故障をしても言い出し難く、連日長時間のマンネリ化した練習を課せられ、ようやく終わったかと思うと下級生はグラウンドに正座をして先輩からの長い説教を聞き、鉄拳や蹴りなどの制裁を受けていたという。指導スタッフも、こうした“伝統”を知らないはずもなく、むしろ肯定的に継続させてきたことになる。
とにかく取材時の話は、絶望的に嚙み合わなかった。
「大所帯で個々の状態にまで目が届かない」「本人が何も言わないから、こちらも分からない」「逃げるように退寮していった」と、監督は嘘も交え責任転嫁の言葉を羅列した。教員の身分なのに、教え子を一般的な日常生活も送れない身体にしてしまった気遣いや後悔は、一切伝わってこなかった。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。