「技術委員長」を「日本代表監督」に据える失策 “消極的”勝利至上主義が招いた窮地

西野監督でW杯ベスト16入りを果たしたとしても、もっと大きなものを失いかねない【写真:Getty Images】
西野監督でW杯ベスト16入りを果たしたとしても、もっと大きなものを失いかねない【写真:Getty Images】

驚いたより呆れた監督交代劇、問われるべき方針なき日本協会の姿勢

 日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督の解任が、9日に発表された。ロシア・ワールドカップ(W杯)開幕まで約2カ月というこの時期での監督交代にも驚いたが、さらに驚いたのが後任に日本サッカー協会の西野朗技術委員長を据えたことだった。驚いたというより呆れてしまったに近い。

 今回の電撃解任の元を辿れば、協会の代表監督に求めるものがはっきりしていなかったことにあると思う。そして、それは協会自体に日本代表をどうしたいのか、こういうサッカーをしたいという明確な方針がないからだ。

 これは今に始まったことではなく、ずっとそうなのだ。できるだけ勝ち上がってくれというものしかない。その代わり、勝っている限りはどんなサッカーでも文句は言わない。いわば「消極的勝利至上主義」という点は一貫していた。

 代表監督の任期はだいたい4年。協会からオーダーがなければ、監督は任期中にできるだけ良い成績を残そうとする。だから、ハリルホジッチの志向する戦術が日本人に合っていないとしても、それで結果が出るのなら協会が口を挟む筋合いではない。

 もし「では、あなたがたはどうしたいのか、負けても構わないのか」と問われたら、返す言葉を持っていないのだ。「負けても構わない。それが将来の進歩につながるから、我々の方針の下にやってほしい」と言えるような“方針”がない。W杯本大会で良い結果が出るか出ないか、それまではいわば監督の言いなりだった。今回は監督の方針に疑問を持った選手たちの信頼を失って、結果を問う前の解任となったわけだが、もともと協会の方針が「結果」しかないことが混乱の根元にある。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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