W杯優勝への近道は「スペイン人の招聘」 日本の監督人事は「悪くない」も…求められる”変化”

日本代表の優勝の鍵となるスペイン方式【写真:ロイター】
日本代表の優勝の鍵となるスペイン方式【写真:ロイター】

森保一監督→大岩剛監督、継続の意識は問題ないが…

 ワールドカップで優勝するのは基本的に強豪国である。

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 自他ともに認める強豪でなくても、強豪を相手に接戦に持ち込む力があれば理屈のうえで優勝は可能だ。4、5回ある対強豪戦に全部勝てばいいからだが、現実的にまずそれは起こらない。

 日本代表が優勝するには、強豪国である必要があるわけだが、そこに到達するまでの時間はざっくり20~30年と考えられる。フランス、スペインが強豪化するまでに約20年かかっているので、おそらくそれ以上はかかる。

 それを踏まえて、日本代表の監督人事について考えてみたい。

 すでにアジアカップまでの森保一監督の継続と、その後の大岩剛監督(五輪代表担当)の就任が決まっている。「継続」を強く意識した人事だ。

 継続したいのは「強豪を倒しうるチーム」の立場だろう。すでに日本はその立場にある。北中米W杯で勝ったのはチュニジア戦だけだが、強豪のオランダ、ブラジルに対して接戦にすることはできていた。全く違う考えの監督を起用して、森保監督はじめ選手、スタッフが8年かけて築いた立場を御破算にしてしまうのはもったいないという思いは理解できる。

 あと少なくとも20年以上は「強豪を倒しうるチーム」という立場は変わらないのだから、変革より継続が大事。各国がしのぎを削る中で現在の地位を保つのは簡単ではなく、継続の中にも進化がなければならないのは言うまでもない。

 変化(進化)に関して言うと、それ自体は比較的簡単にできると思う。

 戦術的な知識がしっかりしている人材を監督に起用すれば良い。具体的にはスペイン人の招聘だ。

 世界の戦術はほぼ1つの基準に収斂されている。基準はスペイン方式である。

 高度なボール保持を前提としたプレッシング、プレッシングを外された時のブロック形成。バルセロナが黄金時代を築き、スペイン代表がそれを吸収し、ペップ・グアルディオラがドイツ、イングランドに広め、多くの追随者を生み出している戦い方。クラブチームは多国籍化しているので地域差がなく、このスタンダードをどれだけ精度高く実行できるかの競争になっている。

 代表は地域(国)の特徴がクラブチームより強いが、それでもスタンダードを追求する傾向は同じで、それに成功しているチームが上位に進出した。スタンダードがスペイン由来なのだから、本家スペインの優勝は必然的と言えるかもしれない。

 世界基準化したスペイン方式は、特別な身体能力や技術を要求していない。だからこそスタンダードになりうるわけだが、「バルセロナ」という母体を持つスペインの域に達するのは、その条件を持たない国にとって至難でもあるわけだ。

 ただ、スペイン方式は理詰めなので導入に関しては伝達が早い。

 7月にセレッソ大阪の監督に就任したパブロ・マチンはスペイン人。プレシーズンマッチではボルシア・ドルトムントを1-0で破っている。同じスタンダードを追求している強豪に対して、C大阪の方が少し精度は高いくらいにみえた。短期間で柏レイソルを変貌させたリカルド・ロドリゲス監督もスペイン人。スペイン人ではないが、アンジェ・ポステコグルー監督(元横浜F・マリノス)やミハイロ・ペトロヴィッチ監督など、優れた戦術家は自分の考えを反映させるのが早い。

 スペイン人、もしくはワールドスタンダードを熟知している人物を監督に据えれば、おそらく変化はすぐに出る。ただ、クラブと代表の違いがあり、「バルセロナ」のような強力な母体がなければスペイン代表の域には達しない。

「強豪を倒しうるチーム」の立場をキープするだけでは強豪そのものにはなれない。継続さえしていれば、ある日突然強豪になれるというものではないので、強豪へのスタートを1日でも早くしたければスペイン人監督は有力な選択肢だ。しかし、それなりの環境条件がなければすぐに進化は頭打ちになる。

 強豪への20年間という視点からすると、森保→大岩の現体制維持は悪い選択ではないと思われる。

“スペイン化”でスペインに勝てるか

 スタンダードを精度高くやる競争になっているなら、そのスタンダードの元であるスペインのプレースタイルを吸収する必要があり、そのための一歩をできるだけ早く踏み出したくなる。

 しかし、スペインのレベルを実現するには育成改革はもとより、それをしてもバルセロナに匹敵する母体を持たない限り難しい。

 そもそもスペイン方式はボール保持が前提。保持して押し込めるからハイプレスが機能する。プレスを機能させるのにボール保持がマストというわけではなく、とりあえず敵陣にボールを入れたあとのカウンタープレスという方法もあるわけだが、保持力があるほうが安定的に押し込みとプレスの循環を作りやすい。

 保持に頼らずに速い攻め込みとカウンタープレスというやり方は多大な運動量が要求され、基本的に暑い時期に開催されるワールドカップには向いていない。とくに相手に保持力がある場合、自分たちが運動量で疲弊するのに加え、相手の保持によって体力が削られるからだ。現在の日本は体力を頼みとしたプレスであり、この点でもW杯優勝は難しい。

 そうなると、ますますスペイン方式導入がマストに思われる。しかし、日本が目指しているのは優勝であるはず。つまり、スペイン方式でスペインに勝たなければならない。

 スペイン方式で勝つにはボール保持が前提だ。もちろんそれだけではないが、保持を軸に戦術全体が組み立てられている。では、スペインを相手にスペイン化した日本は保持力で優位に立てるだろうか。

 W杯でもクラブほどではないにしろスタンダード競争になっている。では、フランスやイングランドに対しても、日本が保持力で優位という前提が成り立つだろうか。

 20~30年かければ可能かもしれない。だが、その間にもW杯は開催されるわけで、保持を前提とした戦い方よりも非保持を前提とした方が合理的なのだ。強豪相手では保持したくてもできない試合が多くなる。そして強豪に勝たなければ優勝には近づけない。

 カタールW杯で日本はスペインに勝っている。圧倒的にスペインに保持されていたが、一時的にハイプレスの奇襲をかけて2ゴールを奪った。スペインを倒すには彼らのスタイルの前提である保持を破壊すればいい。試合全体ではなくごく短時間でも、それができれば勝利できることを日本はすでに証明しているわけだ。

 確率的には低い勝ち方だったと思う。しかし、保持を前提にできない相手に勝とうと思うなら非保持の戦い方のレベルを上げるしかないわけで、日本はすでにその基盤を作っている。まずはそれをより強固にしつつ、できるだけ保持力も上げていくのが順序だろう。1対1の守備力を選考基準にしているのはその点で妥当なのだ。

 スペイン人監督を据え、すべてのリソースをスペイン化につぎ込めば、おそらくすぐに変化は表れると思う。スペイン方式は理詰めであり、日本選手の資質にも合っているので即効性はある。しかし、保持を軸にするなら本家スペインに保持で圧倒できるくらいにならなければ優勝できないわけで、その過程では日本がスペインに勝利したように、日本が格下の相手に取りこぼすケースも出てくるだろう。

 バルセロナのような強力な母体もなく、基本的には欧州のさまざまなクラブでプレーしている選手たちを招集して、短期的にチームを成立させなければならない。その時にベースになっているものがスペイン方式では、おそらく所属クラブで普段やっているプレースタイルとは齟齬が出てくる。バルセロナ、レアル・マドリード、パリ・サンジェルマン、バイエルン・ミュンヘンでレギュラーとしてプレーしている選手たちばかりならスペイン方式でも可能かもしれないが、そうでないならすでに持っている基盤を継続した方が確実だ。

 その点で森保→大岩のリレーは継承の確実性で期待できる。ベストではないかもしれないがベターな選択だろう。ただ、その中でもスタンダードの競争に遅れないように努力はしなければならないし、ブラジル戦で必要だった戦況を一変させる手を打てる戦術に秀でた人材も求められる。

 ただ、足りないところを補うのが監督である必要はない。戦術面に秀でた人材をスタッフに入れる、本大会限定で経験豊富な人物を雇うなど、方法はある。代表監督には政治家的な振る舞いも求められ、すべてを1人で賄うのは無理だろう。代表監督は築いた財産を継承し、調整役としての役割を果たしていくというのが日本的なあり方なのではないか。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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