名将から言われた「お前はあまりない」 英代表MFからヒント…進化で身につけた「大きな武器」

前橋育英の中盤を支える3年生MF笹蒼尉
夏を越えて強くなる――。
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これから始まるリーグ後半戦、そしてその先の全国高校サッカー選手権予選などを見据え、各チームは遠征を繰り返しながらチームと個人の強化を図っている。ここでは「成長の夏」を過ごした高校生たちにスポットを当てていきたい。
今回はプレミアリーグEASTを戦う前橋育英の中盤を支える3年生MF笹蒼尉について。1FC川越水上公園から名門の門を叩いたボランチは今、これまで磨いてきた攻撃力に加え、「意図的なボールハント」を身につけることで、その存在感を大きくしている。
笹のプレーを見ていると、相手がボールを持った時のポジショニングと、ボールが動いてチャンスと見るや一気に前に出て、軽やかにパスコースへ入り込んでいくプレーが目につく。
ただスペースを埋めてボールが来ることを待つのではない。ボールホルダーの視線、身体の向き、周囲のスペースを鋭い目つきで確認しながら、次にどこへボールが出てくるのかを予測する。そして、ボールホルダーがパスを出すために一瞬ヘッドダウンした瞬間、一気に前へ出てパスコースに入り込む。
8月上旬に行われた和倉ユースではそのプレーが何度も光り、奪ってからの正確なラストパスでアシストをしたり、自ら持ち込んでシュートを放ったりと、得点に絡むプレーを随所に見せてチームを優勝に導いた。
「相手の選手がボールを持った時に、ヘッドダウンしながら横パスを出す時がチャンスなんです。横パスを出す雰囲気を感じたら、ヘッドダウンした瞬間に動き出して狙う。その前にスペースや狙いを察知するようにしています」
インターセプトからそのまま足を止めずに一気に攻撃へ転じる。ショートカウンターの急先鋒となるプレーは今や笹の大きな武器となっているが、最初からできていたわけではなかった。
もともと彼はボールを受けて左右にパスを散らし、自らも前に出て攻撃に関わっていくことを得意とするボランチだった。加えて、決して恵まれたフィジカルを持っているわけではなかった。そんな彼に前橋育英を一から作り上げた名将・山田耕介前監督(今夏のインターハイを最後に退任)は昨年から繰り返し、ある言葉を投げ掛けていた。
「お前はフィジカルがあまりないのだから、守備の予測と危機察知能力を研ぎ澄ませ」
さらに、「パスカットを積極的にしなさい」とも言われ続けた。フィジカルで相手を圧倒できないのであれば、相手より先に考え、先に動けばいい。その言葉を笹は試合の中で何度も咀嚼した。
「パスカットは実戦で一番感覚や経験を積めると思ったので、試合の中で考えて、考えて、トライしてきました」
そんななか、ヒントを求めたのが大好きなアーセナルの試合だった。特に注目したのは、イングランド代表MFデクラン・ライス。相手からボールを奪う際、どこを見て、どう動いているのか。そのプレーを繰り返し観察した。
「ライスはパーフェクトな守備をするんです。よく見ると相手のボールホルダーの状況と周りのスペースを見て的確な対応していた。これは僕でも意識してやればできると思ったので、それを実践するようになりました」
山田前監督から言われ続けた「予測」と、トップレベルのプレーから得たヒント。それを実戦の中で何度も試したことで、3年生になった今年、少しずつ点と点がつながり始めた。
興味深いのは、守備力を磨いたことで、彼が本来持っていた攻撃力まで引き出されたことだ。
自陣深くでボールを奪うのではなく、ポゼッション中や組み立ての最中に出てくる相手の横パスを読み、中盤の高い位置で奪う。そうすれば相手の守備陣形が整う前に攻撃へ移ることができる。ワンタッチ、ツータッチで前線へボールを送り、自らもそのままゴール前へ入っていくことができるし、ドリブルでそのまま相手の薄いところを突いてこじ開けることもできる。
「すぐにラストパスやフィニッシュに入れる段階でのパスカットが増えたことが大きい。ラストプレーへの関わりや、アタッキングサードでの強度、スピード感が増しました」
奪う場所が変わったことで、攻撃の景色まで変わった。プレミアリーグEASTではここまで11試合すべてに出場。インターハイこそ2回戦で滝川第二に敗れたが、「あの悔しさを後期につなげないといけない。そのためには重要な大会だった」と位置付ける和倉ユースで、前述した通り圧倒的な存在感を放った。
特に決勝の日大藤沢戦でチームは1-1で迎えた後半開始早々に退場者を出し、10人での戦いを強いられた。数的不利になれば、自陣に引いてブロックを作って耐える意識が強くなってもおかしくない。だが、彼の考えは逆だった。
「10人になって引いていたら、どんどん相手の思う壺になる。前の選手たちがプレスに行った瞬間を見逃さないように前に出て、連動しながらインターセプトのチャンスを狙っていました」
味方が前へ出る。その瞬間に自分も迷わず前へ出る。ブロックを作りながらも奪える瞬間を逃さず、ボールを奪えば一気にカウンターへ。その感覚は「身体が自然に動いた」というほど研ぎ澄まされていた。結果、チームは彼のインターセプトを中心に10人でチャンスを何度も作り出し、決勝弾を挙げて逆転勝利を掴み取った。
フィジカルがないからこそ、予測する。予測するだけでなく、そこから果敢にチャレンジする。それを繰り返してきたからこそ、高い位置で奪うことができ、もともと持っていた技術と攻撃力がより生きる。
「予測しろ」と名将から言われ続けたボランチは、この夏、その言葉を自らの感覚へと変えつつある。成長の夏を終え、結果を出す後期へと。笹はスケールアップした自分をプレミアEASTで実証していく。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。






















