強豪校に直談判「参加させてください」 一般入学で這い上がり…歩んできた“非エリート街道”

米子北の攻守の要を担うMF岸本実
夏を超えて強くなる―。
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これから始まるリーグ後半戦、そしてその先の全国高校サッカー選手権予選などを見据えて、各チームは遠征を繰り返しながらチームと個人の強化を行なっている。ここでは『成長の夏』を誓う高校生たちにスポットを当てていきたい。
今回はプレミアリーグWESTを戦う米子北の攻守の要を担うMF岸本実について。阿南市立那賀川中学校出身で、一般入試から這い上がってきたボランチは、今やチームに欠かせない存在になっている。
高校サッカー界には、全国から有望な選手が集まる強豪校がある。Jクラブのアカデミーや街クラブで実績を積み、年代別代表やトレセンを経験して門を叩く選手も少なくない。
だが、岸本が歩んできた道は、そうした“エリート街道”とは無縁だった。
徳島県阿南市出身。小学生時代は地元の今津小学校で少年団に所属し、那賀川中サッカー部では阿南市トレセンには選ばれたが、県トレセン歴はない。当然、高校進学時もJクラブユースや強豪校から声が掛かることはなかった。それでも今、岸本は高校年代最高峰のプレミアリーグWESTを戦う米子北の主軸ボランチとしてピッチに立っている。
彼の持ち味は豊富な運動量と球際の強さ、繰り返すプレスバックを駆使したボール奪取能力にある。中盤の底で相手の攻撃の芽を摘み取り、素早い攻守の切り替えから前線へ縦パスを供給する。献身的かつ連続性を持ったプレーで周囲からの信頼を掴み取っている。
彼の原点には、自らの意思で踏み出した一歩があった。中学2年時、全国高校サッカー選手権で日大藤沢と戦う米子北をテレビでたまたま目にした。
「粘り強さ、献身性、体を張るプレーが自分のスタイルと合っていた。『ここ、いいな』と思ったんです」
ただ、中学3年の10月まで「どうせ無理だろう」と思い、進路は徳島県内で探していた。それでも頭から米子北が離れなかった彼は、練習会の日程を調べると、すでに終了していることを知った。
普通なら、ここで諦めてもおかしくない。しかし岸本は米子北のホームページで学校の電話番号を調べ、自ら電話をかけた。
「サッカー部の練習に参加させてください」
その行動が運命を動かした。城市徳之総監督が受け入れ、両親とともに米子へ向かった。練習参加はわずか1日。その後に推薦の話があったわけでも、「来てほしい」と誘われたわけでもない。それでも岸本の意思は固まった。
「先輩方も凄く優しくて、練習も楽しかったし、望んでいた強度にも合って、ここに行きたいとより強く思ったので、『受験をして絶対に入ります』と伝えました」
一般入試は2月。なぜ、そこまで彼は米子北にこだわったのか。そこには単なる憧れだけではない、強い意志があった。
「僕がクラブチームではなくて中体連に進んだ理由が、小学校の時に少年団で一緒にやった仲間たちと中学でも一緒に楽しくサッカーがしたかったから。でも、いざ中学になって米子北のサッカーを見て、『上を目指したいのであれば、自ら厳しい環境に飛び込まないといけない』と思うようになったんです。いつまでも居心地のいい環境に居続けてはいけないと思ったし、その上で全国大会や選手権に出たいという思いが強かったので行動しました」
心配する親に対しても、「もしかしたら3年間試合に出られないかもしれないけど行きたい」と自分の口でしっかりと思いを伝えた。親からの了承も得て、不退転の覚悟で米子北の一般入試を経て、サッカー部の門を叩いた。
もちろん、待っていたのは厳しい現実だった。1年生の時は1年生同士の試合にすらほとんど絡めなかった。2年になって県1部リーグで出場機会を掴み、徐々にトップチームへ。だが、昨季のプリンスリーグ中国で与えられた出場時間は、サンフレッチェ広島ユースB戦のわずか5分間。選手権ではメンバー入りこそしたものの、ピッチには立てなかった。それでも彼は前を向き続けた。
「目の前のことを一生懸命やるということは、いつもすごく意識しています。結果が出なくても悔いがないようにやろうと思って、やり続けてきました」
その積み重ねが3年目、一気に花開いた。今季、米子北はプレミアリーグWESTに昇格。岸本は高校年代最高峰の舞台で主軸を任され、インターハイでもスタメンとして全国のピッチに立った。
「正直、入学した時は全く想像できなかった状況です」
彼が目標にする存在がいる。米子北の偉大な先輩であり、日本代表でも活躍するMF佐野海舟だ。岸本の持ち味も献身性、身体を張った守備、そしてインターセプト。佐野の映像を繰り返し見ながら、ただボールを奪うだけではなく、相手を意図的に誘導して奪う術を研究している。
「佐野選手は自分主導でプレーする。どうしても僕は相手主導でやってしまうことが多い。逆側を切って相手にパスを出させて奪う。切ってからの一歩目の動き出しや反応の速度は非常に質が高いので、全ての面で自分を磨いていかないといけないと思っています」
入学時には想像もしなかった世界に立っているが、彼は決して夢見がちになっているわけではない。きちんと現実と現在地を見つめ、より上を目指すために必要な自己研鑽に真摯な姿勢で取り組んでいる。
特にインターハイ初戦で日章学園に1-2で敗れた試合は、1失点目でクロスを上げさせた自らの守備や、2失点目でゴール前へ戻り切れなかった場面が頭に刻まれている。
「もっときちんと戻り切る、コースを切る、シュートコースを隠すなど、ボランチとしてやらなければならないことが多いことを教えてくれた敗戦でした。それに、みんなの思いを背負っているという責任感をより感じるようになりました」
だからこそ、もっと走る。もっと声を出す。もっと身体を張る。
「這い上がっていくのは得意。これからも中体連の意地を持ってやっていきたいと思います」
米子北の3年生で中体連出身はわずか2人。全体を見ても中体連でトップチームにいるのは岸本だけだ。彼のひたむきに取り組む姿勢には、チームのキャプテンであり守備の要であるCB熊野俊典も「あいつの頑張りがチームに本当に良い影響を与えてくれている」と一目を置いている。
目の前の一日を誰よりも懸命に積み重ねる。その意思さえ失わなければ、スタート地点がどこであろうと、自らの手で道は切り拓ける。岸本実の3年間は、そのことを何より雄弁に物語っている。そしてプレミアリーグWEST後期、その先の選手権においても、彼が積み重ねてきた努力の過程は、チームにとって重要なエネルギーになるだろう。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。





















