練習後に見た闘莉王「炯々と輝いていた瞳」 オシム監督と森保監督…当時と重なる一体感

過去に日本代表を率いたイビチャ・オシム【写真:徳原隆元】
過去に日本代表を率いたイビチャ・オシム【写真:徳原隆元】

チームが醸し出す一体感も、オシムが指揮を執った時代に近い印象を受ける

 日本代表が世界の強豪国との対戦で、好勝負を演じられるまでに力をつけてきた現在の姿となる出発点は、やはり1998年フランスワールドカップ(W杯)の出場だろう。W杯に連続出場することによって、日本サッカー発展への歯車は大きく動き出し、歓喜の勝利と敗北の教訓を経てレベルアップを遂げてきた。

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 そうして紡がれてきた代表の近代史において、個人的に強く印象に残っているチームがある。それはイビチャ・オシムが指揮を執った、2010年南アフリカW杯での成功を目指したチームである。

 人間としての揺るぎない威厳に満ちたオシムは、チームを勝利へと導く確固たるサッカー理論と、それをピッチで実践できる指導力を併せ持った人物だった。怜悧な洞察力を持ち、あらゆる場面で自らの経験に基づく自己判断を徹底して貫き通すオシムは、他国のスタイルを真似るのではなく、日本独自のスタイルの確立を掲げチーム作りを推し進める。妥協のない厳しいトレーニングによる走力と組織力を武器に、日本をタフに戦える集団へと導いていった。

 選手たちも指揮官の高度な要求に対して、その困難を楽しむように懸命にトレーニングへと打ち込んでいく。あるときの練習後に見た、報道陣の質問に答える田中マルクス闘莉王の炯々と輝いていた瞳は、全選手の代表活動の充実ぶりを表していたと思う。世界の高みへと果敢に挑む監督の信念と、その思いが伝播した選手たちの姿に、日本サッカー躍進の未来を予感した。

 だが、残念なことにオシムは志半ばで体調を崩してしまい、W杯本大会で采配を振るうことはなかった。過去を変えることはできないが、それでもこのサッカーにおける思考と行動の巨人の手によって完成した日本代表だったら、W杯の舞台で力のすべてを出し切ったと思える達成感に満ちた光景を目にすることができたのではないか。そう思う気持ちはいまでも消えることなく、心のなかに残っている。それほどオシムの卓越した指導力には期待を持っていた。

 オシムをはじめ、それぞれの時代で日本代表の指揮を執った監督たちは、自らのサッカー理論から導き出したシステムをチームに浸透させ世界と対峙してきた。岡田武史とフィリップ・トルシエは守備を重視して世界に立ち向かい、一転してジーコとアルベルト・ザッケローニは攻撃的なスタイルでW杯に臨んだ。

 ときは流れ現代サッカーは、世界を形成する情報化社会と密接に結びつくことによって、相手の研究が容易になり、また自分たちの戦い方も分析されてしまうことが必至の状況となっている。そうした綿密な研究と分析によって勝負に勝つ方法は絞られていき、ここに最善策がつまびらかとなる。

 現代サッカーで勝利を目指すうえでもっとも効果的なのが、前線からの守備で相手にサッカーをさせず、ボールを奪うとサイド攻撃を主体とした素早い仕掛けでゴールを目指す戦術だ。かつてはヨーロッパの組織、南米のテクニック、アフリカのフィジカルパワーと、大陸によって戦い方には特徴があった。だが、もはやそうした地域によるサッカーの特性を感じることは少なくなり、上記した戦術が世界標準として認識されつつある。

 その潮流を示すひとつの例がブラジルだ。かつては相手がどうくるかなど歯牙にもかけず、自分たちが得意としている華麗な攻撃サッカーの追及に熱中していた王国ブラジルでさえ、現代では相手の手の内を研究し、それに対応するスタイルを展開している。

 ブラジルがそうであるように現在の日本の戦術も、まずは相手にサッカーをさせないことから始まる。先のイギリス遠征の2試合でも、前線の選手が積極的な守備で相手の攻撃の起点を抑えるために奔走している。イングランド戦に先発した前線のレギュラークラスの選手たちの特出すべき点は、相手がボールを保持しているときは守備に注力しても、攻撃に転じた際に決してパワー不足にはならず、果敢に相手ゴールを狙えるタフさを持ち合わせているところだ。

 さらに言えば、彼らシャドーとウイングバックは戦術に即した攻守の動きに加え、局面によっては決まりごとの枠組みを超えた1対1の勝負で、個人能力を武器に相手守備網を突破する高い技術も持っている。

 翻って攻撃を担う選手が突破への意欲が低く、相手守備陣に詰まると横や後方へのパスに逃げてしまうようではチームの流れは停滞してしまう。現代サッカーは綿密な研究により、相手の対応力が向上しているため、余計なボール回しに費やす時間的余裕はない。ボールを持ってから一気呵成にゴールを攻略しなければ、敵はすぐに陣形を整えてしまい、攻撃のためのスペースは消されてしまう。その点で言えば現在の日本の中核を成す攻撃陣は、現代サッカーの攻略を熟知しているように、少ない手数で素早く攻撃を仕掛ける意欲が旺盛だ。

 監督が持つ底知れぬ老練さという観点からすれば、森保監督はまだオシムのレベルには達していない。それでも森保監督が率いる現在のチームには、8年の歳月によって築き上げられた戦術遂行によって到達する、偶然に頼ることなく必然的に勝利を目指す姿勢を強く感じる。

 選手たちの個人能力に目を向ければ、オシム時代より現在の方がレベルは高い。ピッチで見せる戦術的な動きと、状況によって発揮される個人技とのバランスも非常に良い。

 チームが醸し出す一体感も、オシムが指揮を執った時代に近い印象を受ける。そうしたさまざまな要素を総合的に判断すると、かつてオシムが率いたチームに覚えた圧倒的な期待感を森保ジャパンに抱いたとしても、それは決して行きすぎた願望ではないと思う。

 親善試合での勝利は決して手放しで喜ぶことはできないが、それでもブラジルやイングランドの強豪国を撃破してきた日本の戦いぶりは、かつてないほどに本物の強さが漂う。フランスW杯が嚆矢(こうし)となった、サムライブルーがサッカー界最高峰の大会で放つ実力の矢は、いまもっとも上昇気流に乗っていると言える。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)



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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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