市場価値は半分以下も…内容は真逆だった“国立対決” 世紀の大番狂わせではない理由

東京Vと浦和レッズが国立競技場で対戦した【写真:YUTAKA/アフロスポーツ & 徳原隆元】
東京Vと浦和レッズが国立競技場で対戦した【写真:YUTAKA/アフロスポーツ & 徳原隆元】

浦和と東京Vが対戦した国立対決は、好対照を成すチームの顔合わせだった

 3月2週目の“国立対決”は、好対照を成すチームの顔合わせだった。浦和レッズは今更事挙げするまでもなく、2年連続(2023~24年)して100億円の収益を突破したJ1を代表する人気チームだ。他クラブで実績を残した有力選手たちが次々と集まって来る。それに対し東京ヴェルディは、2024年度のクラブ収益がJ1で15位。当時J2の清水エスパルスにも及ばなかった。

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 先日のFC町田ゼルビア戦後には指揮官自ら「ウチはCBが次々に抜かれていくチーム」とこぼしたが、育成力は抜きんでていても人が出て行ってしまうクラブの筆頭格だ。「Transfer Markt」によれば、両クラブ選手たちの市場価格総額は、浦和の1773万ユーロ(約32億2868万円)に対し、東京Vは870万ユーロ(約15億8340万円)。市場価格が必ずしも選手の価値を正確に反映しているわけではないが、年齢構成を見ても、とりわけ経験値では東京Vは半分以下だったかもしれない。

 実際試合後のデータを見れば、事前の情報が説得に足るようにも映る。浦和が64%ボールを支配し、シュート数は浦和の15本-11本で、枠内はともに4本。浦和は実に505本のパスをつなぎ、東京Vは191本に止まっている。この数字を見れば、東京Vが1-0で勝利したのは世紀の大番狂わせで、再現性は限りなくゼロに近い印象を与えるはずだ。

 だが現場で見た印象は、むしろ真逆だった。序盤主導権を握りかけたのは、確かに浦和だった。ビルドアップにも工夫が見られ、左SBの荻原拓也が持つと、すぐに前線から渡邊凌麿が降りてきてマテウス・サヴィオにつなぎ、ボランチから左サイドへ飛び出す安居海渡が受けると、最後は右サイドから左ポケットへと走り込む金子拓郎が引き継ぎ中へ折り返す。さらにシンプルな幅広い揺さぶりで右から金子がサイドを変えると、マテウス・サヴィオの速めのクロスに肥田野蓮治が頭で合わせた。

 しかし10分過ぎから東京Vが、自陣でボールを受けるマテウス・サヴィオに徹底して厳しいプレッシャーをかけ活路を見出していく。11分には、マテウス・サヴィオの苦し紛れの横パスを平川怜が奪い、右サイドからショートカウンター。斎藤功佑の折り返しを森田晃樹がフリーで狙う。そして3分後には、同じように鈴木海音がマテウス・サヴィオを追い込みボールを奪うと、森田が絶妙のクロスを送りファーで染野唯月が滑り込みながら合わせて均衡を破った。

 狙いどころを共有し、効率的に創造的に、そして勇敢に試合を進めたのは東京Vだった。城福浩監督は言った。

「良い守備は攻撃のためにやる。せっかくエネルギーをかけて奪っても、その瞬間にバックパスをしたら一番もったいない。だから1つでも前で受けられるポジションを取れるように、全員が意識高くやってくれている」

 ボール保持率では劣っても、奪ってから効果的に仕掛け崩しにかかる東京Vの攻撃は、その後も繰り返し浦和の守備を脅かしていく。一方浦和は時間の経過とともに焦りも相まって崩しが単調になり、サイドに預けては決まり事のように35本のクロスを放り込んだが、ひとつも結実しなかった。それ以上にスタンドがどよめくような意外性や創造的な連携は見られず、明白な決定機も作れなかった。浦和のマチュイ・スコルジャ監督は、こう振り返った。

「ゾーン3(アタッキングサード)での連携がうまくいかなかった。後半は斜めの走りなどで背後を狙おうと2トップにしたり、トップ下にクリエイティブな中島翔哉を入れたりしたが、うまくいかなかった」

 東京Vのベンチ入り20人の平均年齢は24.5歳で、30歳代はゼロ。確かに東京Vは次々に選手を引き抜かれているが、逆に戦力が急ピッチで書き換えられているだけに、実戦での栄養が倍化されるという見方もできる。

 その点で浦和もCBに根本健太、FWも肥田野など、指揮官が努めて新たな抜擢を試みているようにも見えるが、ここ数年間は、戦力に見合う魅力的なパフォーマンスを引き出せていない。

 Jリーグは世界への牽引車を熱望しているようだが、それは予算だけでは解決できそうもない。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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