日本人選手が欧州で重宝されるワケ 構造主義を意識せずに吸収…吹いてきた“追い風”

日本サッカーの成長率はトップクラス【写真:徳原隆元】
日本サッカーの成長率はトップクラス【写真:徳原隆元】

構造主義をそれと意識せずに吸収した日本人は比較有利な立場なのだろう

 今、日本サッカーには追い風が吹いているのかもしれない。日本代表はFIFAランキング19位。アジアトップを維持し、ワールドカップ(W杯)のポット分けではポット2に入った。開催国3つとFIFAランキング上位9位のポット1ではないが、24位までのポット2には余裕だった。

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 クラブチームはそこまでの地位を得ていないが、AFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)では優勝を争える実力を示している。100倍の資金を投入して補強しているサウジアラビア勢とも張り合えている。

 欧州クラブへの移籍は右肩上がりに増えた。欧州5大リーグのトップであるプレミアリーグにも三笘薫、遠藤航、鎌田大地、田中碧の4人がプレーしていて、欧州全体では総勢100人をゆうに超えている。国外移籍の数ではブラジルが約3000人、フランスやアルゼンチンは2000人規模と言われているので桁違いではあるが、5年間の成長率でみるなら日本はトップクラスだ。

 日本人選手の需要の高まりは、育成の成果であるとともに世界的なサッカーの傾向と合致しているという理由も大きいのではないかと考えられる。欧州では構造主義がすっかり定着した。

 強豪クラブは資金があり、他クラブよりも有力な選手でチームが編成されている。ただ、選手の価値(年俸)の総和がそのまま勝敗に直結するわけではない。そこで強豪クラブは選手の実力差がひっくり返らないように、アップセットが起きないような構造を作ってしまおうという戦い方をするようになっている。

 具体的にはなるべく多くの攻守を敵陣内で行うこと。自陣からパスをつないで相手を押し込み、敵陣で失っても早期に回収できるような攻め方をする。相手に攻撃の機会を与えないままに攻撃するわけだ。

 これ自体は多くの強豪チームが昔からそうだったのだが、構造といえるほどカッチリした形に仕上げたのは1990年代のアヤックスだろう。ルイ・ファン・ハール監督はパスワークを自動化し、強力なウイングまで着実に運ぶ仕組みを作った。クリアボールを拾っての二次攻撃、サイドで失っても即時のプレスで回収。攻守を敵陣で続ける構造である。

 現在のアーセナル、マンチェスター・シティ、バイエルン、バルセロナ、パリ・サンジェルマンなどリーグ優勝の常連はほぼすべて強固な構造サッカーを行っている。番狂わせの芽を摘むやり方が面白いかというと疑問はあるが、勝ちやすいのは事実だ。中堅クラスでも上を目指すなら同じ型を目指すことになる。ビルドアップができなくてもロングボールを蹴って押し込むことは可能。やり方はさまざまだが、押し込み+ハイプレスの形は定番化しつつある。

 構造主義の浸透によって、サッカーは監督の考えをいかに具現化するかの勝負になった。なってしまった、というべきかもしれない。サッカーは本来、瞬間での選手の判断がほぼすべてだ。監督の戦術はその点ではノイズでしかない。しかし構造は作らなければならないので、戦術と選手の判断を合致させるべく練習に工夫が施され、選手が違和感なく監督のオーダーどおりの判断できるように仕向けることが、ある意味監督の手腕として評価されるようになった。現代サッカーに創造力が不足していると言われるのも当然の帰結だろう。

 より緻密な構造のためにはアタッカーにも守備タスクが与えられる。今や、守備免除のスーパーエースはチームに1人。2人いたら難しくなるのが現状だ。

 日本人選手の需要が高まっている背景がここにある。技術が高い、走れる、守備をさぼらない、自分勝手なプレーをしない。日本人に求められているのはスーパーエースではなく、チームを支えられる資質なのだ。Jリーグでは外国籍選手も含めて守備免除のFWはほぼゼロといっていい。監督の指示を待つまでもなく献身的なプレーができて、指示など及ばない即興的なパスワークも「空気を読む」特性によって秀でている。

 欧州人や南米人があまり得意でないサッカーに取り組んでいるなか、構造主義をそれと意識せずに吸収した日本人は比較有利な立場なのだろう。自分たちが作り出した流れではないが、確実に潮流に乗っているのではないかと思われる。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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