開幕2戦目で古巣戦「ちょっと嫌だな」 覚悟のJ2移籍…批判的な声は「全く届いてない」

藤枝MYFCの菊井悠介が迎える古巣戦
元日本代表DFの槙野智章新監督を迎えたJ2の藤枝MYFCに、覚悟を決めて加入した新10番がいる。キャプテンと10番を担っていたJ3の松本山雅FCから、完全移籍で加入したプロ5年目の26歳・菊井悠介は、14日のJ2・J3百年構想リーグ第2節で早くも実現する古巣との対決に特別な思いを募らせている。(取材・文=藤江直人)
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藤枝MYFCの「10番」を新たに託された菊井悠介は、運命の悪戯を感じずにはいられなかった。
2022シーズンに流通経済大学から加入し、4年間プレーしたJ3の松本山雅FCから、槙野智章新監督の就任で注目を集めていたJ2の藤枝への完全移籍が発表されてから2日後の昨年12月15日。秋春制へのシーズン移行に伴って開催される特別大会、百年構想リーグの地域リーグラウンドの組み合わせが発表された。
総勢40チームが東西に、さらにそれぞれがAとBの計4グループに分けられるJ2・J3百年構想リーグで、藤枝は「EAST-B」に入った。そして同じグループに松本も名を連ねた。菊井が思わず苦笑する。
「うれしく思ったのが半面と、ちょっと嫌だなと思ったのが半面という感じでした」
同26日にはJ1を含めた全グループの第2節までの詳細が発表された。藤枝はともにホームの藤枝総合運動公園サッカー場に8日の開幕節でFC岐阜、そして14日の第2節では松本を迎える日程となった。
覚悟を決めて藤枝への個人昇格を決めた。それが一生に一度となる特別大会で古巣の松本と同じグループになり、かつ開幕早々に公式戦で対峙する。いまでは菊井のなかでモチベーションがかき立てられている。
「しっかりと自分らしいプレーをして、松本山雅のファン・サポーターに対してもそうですし、藤枝のファン・サポーターにも『藤枝の中盤は菊井だ』と言ってもらえるような活躍をしたいと思っています」
松本に加入して3年目の2024シーズンから10番を託され、キャプテンを拝命した。ルーキーイヤーから主軸で起用され、4年間でJ3リーグ戦126試合に出場。最多だった昨シーズンの7ゴールを含めて、合計21ゴールをあげた。思い入れの強い松本へ、移籍が発表されたクラブ公式ホームページで菊井はこんな言葉を綴った。
「藤枝MYFCに移籍する決断を全員に理解してもらおうとは思っていません。もちろんいろいろな意見があると思います。でも僕はこの決断を必ず正解にしていきます」
松本をJ3から昇格させられなかった4年間を「心残り」とした菊井は、簡単な決断ではなかったと前置きしたうえで、後ろを振り返らずに移籍を決めた。別れの言葉に込めた真意を聞くとこんな言葉が返ってきた。
「僕はあのクラブ(松本)に入ったときから、あのクラブでJ2、J1に昇格して引退する夢をもっていました。あのクラブにすごく成長させてもらっていたので、たとえ移籍するにしても何か結果で恩返ししてから、というところも考えていたなかで、何もできずに去る形になりました。そういう言葉を口にしていたからこそ、この移籍に対して『気持ちよく行ってこい』と言ってくれる人だけではないと僕は思っていたので」
しかし、いい意味で裏切られた。批判的な声は「まったく届いていなくて」と菊井は心を震わせた。
「みんな『J2で暴れてこい』と。本当にそういった言葉ばかりでしたし、あとは『キャプテンを務めてくれてありがとう』という感謝の気持ちが込められたメッセージがほとんどでした」
大学を卒業したJリーガーにとって、現役でプレーできる時間は決して長くない。流通経済大学の同期生で、いまもよく連絡を取り合う佐々木旭(川崎フロンターレ)や佐藤響(京都サンガF.C.)、菊池泰智(名古屋グランパス)らのJ1勢に刺激を受けているからこそ、自分も、という思いがどうしても膨らんでくる。
迎えたオフになって藤枝からオファーが届いた。菊井は自分が抱く思いに素直に従った。
「自分もちょっとずつ年齢を重ねてきているなかで『勝負したい』と思っていたので。そこで自分のプレースタイルと藤枝さんがやりたいプレーモデルが非常に合うと感じたので、そこで決断しました」
そして新天地でもエースナンバーの10番を託された。驚くとともに意気に感じたと菊井は振り返る。
「僕自身としてはそれほど背番号にこだわりがあるタイプではないんですけど、強化部の方から『10番をつけてほしい』と話をいただいたときに『誰にでも与えられる背番号ではない』と感じました。だからこそ、この番号を背負うからにはしっかりとまっとうしよう、自分らしいプレーをしよう、と思いました」
中学生時代はヴィッセル神戸のアカデミーでテクニックを磨いた。3年次に全国高校サッカー選手権大会に出場した大阪桐蔭高校から進学した流通経済大学では、3年次だった2020年に運命的な出会いがあった。
コーチを務めた曺貴裁氏(現・京都監督)に感謝しながら、菊井はこんな言葉を残している。
「チームのために走る、チームを助ける、というところは曺さんと会うまでの僕にはなかったものでした。プレーの質はある程度ありましたけど、量が伴っていなかったというか。メンタル的な部分も含めて『長所がない』と言われた自分を、プロの世界に入れるまでに変えてくれたのが曺さんでした」
大学3年次に変わり、松本でさらに肉づけされた菊井の武器はまさに「10番」に求められるものだった。
「攻撃の部分でのアイデアやスルーパス、ドリブル、シュートというところですね」
岐阜との開幕戦で「3-4-2-1」のシャドーで先発した菊井は後半43分までプレー。しかし、前半42分にPKで先制された藤枝は後半にも失点し、百年構想リーグでJ3勢に敗れた初のJ2クラブとなった。
それでも槙野新監督が掲げるサッカーに「見ている人も、プレーする選手も面白いと感じるサッカーだと思う」と共感する菊井は、新天地での初陣で喫した黒星をすでにポジティブなものに変換している。
「後半はちょっとバタバタしてしまいましたけど、前半は自分たちのリズムでプレーできていましたし、相手ゴール前にも多く入っていけた。それを90分間続けながら、自分はゴールやアシストにこだわっていきたい」
移籍という決断を正解にしていくための戦いはまだ幕を開けたばかり。身長173センチ・体重73キロの身体に古巣への恩返しの思いを詰め込みながら、菊井は14日の松本戦で貪欲に勝利を求めていく。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。




















