新監督から言われた「やってみないか」 人生初の経験…22歳ダイナモに芽生えた覚悟「可能性はあるかなと」

清水のキャプテンに就任した宇野禅斗
ヴィッセル神戸にリーグ戦連覇を含めて3つのタイトルをもたらした、吉田孝行監督を迎えた清水エスパルスの新たなキャプテンがちょっとした驚きを与えている。プロ5年目の22歳、宇野禅斗は新たな指揮官から託された大役をどのように受け止めているのか。青森山田高校からFC町田ゼルビアを経て清水に加入したのが2024年7月。昨夏には待望の日本代表デビューも果たした中盤のダイナモの現在地を追った。(取材・文=藤江直人)
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大役拝命は実は臨むところだった。清水エスパルスが始動してすぐに、宇野禅斗は吉田孝行新監督から「やってみないか」と新体制でのキャプテン就任を打診された。指揮官とのやり取りを宇野が明かす。
「最初に言われたのはキャンプが始まる前で、そのときは『キャンプ中に決めるからちょっと考えておいて』と。キャンプの半ばくらいに『お願いできるか』と正式に言われたので、僕は『やります』と答えました」
母校である青森山田高校時代を含めて、これまでのサッカー人生でキャプテンを務めた経験は一度もない。それでもチームが始動したときから、プロ5年目のシーズンに臨む22歳の宇野は心の準備を整えていた。
「語弊のないように言うのがちょっと難しいんですけど、準備はしていたというか、正直、可能性はあるかなと思っていました。なので、自分のなかには『ありがたい』という思いしかないですね。監督が代わったばかりで、一緒に仕事をしていない段階でまだまだ未熟な自分を信頼していただけたのがとてもうれしいし、昨シーズンの自分のパフォーマンスや立ち居振る舞いを見たうえで指名していただけたと思うので」
昨夏に韓国で開催された東アジアE-1サッカー選手権大会を制した森保ジャパンに初めて選出され、中国、韓国両代表戦でピッチに立った。清水に所属する選手の代表戦出場は、フィールドプレイヤーに限れば2011年1月の岡崎慎司以来だった。帰国後の反響の大きさを含めて、宇野は「代表」がもたらす意味を実感している。
「クラブに関わる方もそうですけど、ファン・サポーターのみなさんやスポンサーの方々にお会いして、声をかけていただくときに、代表に選ばれたところをすごく喜んでいただけた。エスパルスというチームにとって、やはりそこ(代表)はすごくうれしいんだと感じたというか、あらためてそのような自覚をもちました」
自覚とは現状に満足せず、さらに上を目指していくギラギラした野心と同義語となる。キャプテン拝命へ、言われる前に心の準備を整えていた点も然り。ピッチ内外の姿勢に、吉田監督も大きな期待を寄せている。
そして、クラブ史上で2番目の若さで就任したキャプテンの視線は未来へと向けられている。宇野は「実際にそうなれるかどうかはわからないですけど」と断りを入れながら、理想のキャプテン像を明かした。
「僕のなかのキャプテンは長谷部誠さんですね。小さなころから代表の試合をずっと見続けてきたなかで、まさにキャプテンだというピッチ内外での立ち居振る舞いや人間性を含めて、すごく尊敬できる方なので。プレーで引っ張るところは自分にも少なからずできると思うので、ピッチの上でどんどん体現していきたい」
さらに自身にとって2度目のJ1での戦いとなった昨シーズンを、ボランチや3バックの一角でフル回転した前半戦から一転して、怪我でわずか5試合の出場に留まった後半戦への反省を込めてこう語っている。
「ひとつ言うとしたら、キャプテンを務める以上はやはり常にピッチ上にいなければいけないし、常にチームの中心として働かなければいけないと思うので、そこは強く意識していきたい」
ヴィッセル神戸にリーグ戦連覇をもたらし、2024シーズンには天皇杯との二冠へと導いた吉田監督のもとで、昨シーズンまでは[3-4-2-1]が主戦システムだった清水の戦い方は大きく変わりつつある。
神戸時代の吉田監督は[4-3-3]システムのもと、前線からのハイプレスを基軸に強度の高いサッカーを標榜した。しかも中盤はアンカーの扇原貴宏の前に2人のインサイドハーフが並んだ。宇野が力を込める。
「昨シーズンまでは2ボランチでしたけど、今シーズンは中盤が少し変わる。タカさん(吉田監督)から『どちらがいい』と聞かれましたけど、青森山田のときにアンカーのポジションでプレーしているので、僕からは『どちらでも大丈夫です』と。6番と8番の両方でプレーできるのを、自分の新たな強みにしていきたい」
ここでの怪我をしない体がテーマに絡んでくる。昨シーズンの神戸の中盤と比較しながら宇野が続ける。
「わかりやすく言えば扇原さんや井手口(陽介)さんは、あれだけの運動量を保ったままほぼフルシーズンを戦い抜いていた。やはり毎試合のように90分間フルで出て、なおかつハイパフォーマンスを維持し続けるのはすごく大事なので、その意味で運動量においても一段、二段とさらにあげていきたい。あとは得点に絡むところですよね。昨シーズンは1アシストで終わったので、そういった数字に対しても貪欲にこだわっていきたい」
青森山田高校から加入したFC町田ゼルビア時代を含めて、宇野はJ1リーグでゴールを決めていない。インサイドハーフでプレーするときは、相手ゴール前での仕事により多く絡んでいくイメージも思い描いている。
キャプテン拝命を介して、吉田監督のもとで進化を遂げていく決意は新たな背番号にも反映されている。清水に移籍した2024年7月から背負ってきた「36」を、宇野は今シーズンから「6」に変えている。町田時代は「16」だった宇野にとって初めてのひと桁であり、青森山田で2年、3年次と守り抜いた背番号でもあった。
「僕が大好きな背番号をこのエスパルスというクラブでつけたい、という思いがあったので、自分としてもすごくうれしい。だからこそ結果でファン・サポーターのみなさんに喜んでもらえるように頑張っていきたい」
3大会続けてワールドカップでキャプテンを務めた日本代表のレジェンドへ抱く憧憬の思いをエネルギーに変え、身長176cm・体重72kgの体に搭載された無尽蔵のスタミナをフル稼働させながら中盤で攻守に絡んでいく。背中の「6番」が目立つほどに、新生エスパルスも新たなステージへ駆けあがっていくはずだ。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。




















