取材後に一礼…気にしない「こいつ、調子に乗っているな」 タイの英雄から学んだ姿勢

鹿島学園のプムラピー・スリブンヤコ【写真:安藤隆人】
鹿島学園のプムラピー・スリブンヤコ【写真:安藤隆人】

鹿島学園のプムラピー・スリブンヤコ「チャナティップさんの姿を見習っています」

 高円宮杯プレミアリーグは鹿島アントラーズユースの優勝で、第104回全国高校サッカー選手権大会は神村学園の初優勝で幕を閉じた。2025シーズンを終え、各クラブユース、高体連のチームは新チームをスタートさせ、新たな戦いに向けて準備を進めている。4月のリーグ本格開幕を前に虎視淡々と上を目指すチーム、選手にスポットを当てていきたい。

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 今回は1月24日から27日まで静岡県の御殿場で行われたU-17日本高校選抜候補合宿から。今回の選手権で主役の一人となった鹿島学園の2年生GKプムラピー・スリブンヤコ。注目度も知名度も飛躍的に高まった今が旬のGKに話を聞くと、軸となっている真摯な姿勢を垣間見ることができた――。

 選手権において193センチの長身と鋭い反応から繰り出すセービング、ハイボール処理で質の高いプレーを連発し、チーム初の決勝進出に大きく貢献したのは記憶に新しい。

 大会優秀選手に選ばれたプムラピーはU-17日本高校選抜合宿でも、そのサイズとセービングセンスを生かして日本体育大学戦、U-18日本高校選抜候補戦で一番手として安定したプレーを見せた。

「みんな高校生のトップレベルだし、自分も足りないものも感じることはできました」

 4日間のなかで一番刺激となったのが南雄太GKコーチの指導だったという。南コーチは柏レイソル、ロアッソ熊本、横浜FC、大宮アルディージャで27年間の現役生活を送り、日本代表にも選出されたレジェンドGK。現在は流通経済大柏のGKコーチを務める南コーチについて、「正直、現役時代のことは知りませんでした」と正直に口にする一方で、「ハッとさせられた」鋭い指摘があった。

「神村学園の3失点目はゴロだったし、ちゃんと構えて手を出していたら止められていたよ」

 決勝戦、0-2で迎えた後半アディショナルタイム2分、神村学園のFW日髙元のスルーパスが右ポケットのMF佐々木悠太に渡ると、佐々木は切り返してDFを交わしてから左足シュート。プムラピーも反応して右手を差し出すが届かず、指先を通過してゴール右サイドネットに突き刺さった。

「確かにあのシーン、僕は反応こそしていたのですが、右手があまり伸びなくて触ることができませんでした。そこで南コーチは『逆の手(左手)をきちんと伸ばしたり出していたりしたら、自然と右手もスッと出るよ』と言ってくれたんです」

 いわゆる逆手の“被せ”ができていなかった。この指摘にプムラピーはもう一度セービングの感覚を考え直した。

「僕が左手を倒すことで身体も傾いて右手も出やすくなる。その被せがないから届かなかった。失点した直後も、『これは俺のせいだ』と思っていたのですが、それをはっきりと言葉にしてくれて、対処法も教えてもらえたので、そこはかなりためになりました」

 最終日のU-18日本高校選抜候補戦。シュートではないが、右サイドを突破されてからのグラウンダーのライナークロスに対し、うまく逆手を被せながら右手を伸ばして完璧にブロック。指摘されたことをしっかりと落とし込んで見せた素晴らしいプレーだった。

「鹿島学園でも、選抜でも、本当にしっかりと教えてもらえて成長しているのを実感できています。日本に来て思ったことは、タイよりもシュートのスピード、質、重さがすごい。最初は慣れるまでに時間はかかりましたが、そこはコーチから丁寧に基礎から教えてもらいました」

 タイから単身で鹿島学園にやってきた守護神は今、右肩上がりの成長曲線を描いている。磨かれているのはプレー面だけではない。人間性の面でもタイのスーパースターから学んだ姿勢を大切にしながら磨いている。

「選手権が終わって、自分がちょっとだけ有名になって、いろんなところで『プムラピー選手』と呼ばれたり、サインを求められたりすることが増えました。それは本当に嬉しいことで、僕も有名な選手に会ったときに『写真撮りたいな』『サイン欲しいな』と思っていたし、周りの人が声をかけているのを小さいときから見ていたので、今度は自分がその立場になったら断ることなく、しっかりと接したいと思っています」

 プムラピー自身も小さいときにタイのサッカー選手に対して大きな憧れを抱いていた。特に北海道コンサドーレ札幌や川崎フロンターレでプレーし、日本でも人気選手だったタイの国民的選手のチャナティップは特に憧れを抱いていた存在だった。

「チャナティップ選手はテレビなどの立ち振る舞いを見ても、かなり優しい人だなと思っていました。タイ代表でもJリーグでも、タイリーグに戻ってきてからも、人に対して丁寧に対応するし、しっかりと自分を持っている素晴らしい人間性を持った人。僕はそこまで有名ではありませんが、少しだけ周りに知ってもらえるようになったからこそ、チャナティップさんの姿を見習っています」

 日本で様々な経験を重ねて逞しさを増しているプムラピー・スリブンヤコ。その根底にはサッカーに対する真摯な姿勢が土台としてあるからこそ、成長し、周りからも愛される存在になっている。

「もちろん写真やサインに応じることで、周りからもしかすると『こいつ、調子に乗っているな』と思われるかもしれません。でも、そこは気にしないで、ちゃんとサッカーに向き合う姿勢は変えないでやることが大事だと思っています」

 取材の後、筆者に一礼をしてくれた。有名になってもブレない軸を持って。プムラピーは選手としても、人間としてもより大きくなって未来に羽ばたいていく。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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