選手権でメンバー外「理由はわかっていた」 主力MFがまさか…目に焼き付けた”先輩の背中”

神村学園の伏原俐空【写真:安藤隆人】
神村学園の伏原俐空【写真:安藤隆人】

神村学園の2年生MF伏原俐空

 高円宮杯プレミアリーグは鹿島アントラーズユースの優勝で、第104回全国高校サッカー選手権大会は神村学園の初優勝で幕を閉じた。

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 2025年シーズンを終え、各クラブユース、高体連のチームは新チームをスタートさせ、新たな戦いに向けて準備を進めている。4月のリーグ本格開幕を前に虎視淡々と上を目指すチーム、選手にスポットを当てていきたい。

 今回は新人戦鹿児島県大会から。昨年、2年生で神村学園の『出世番号』12番を背負い、プレミアリーグWESTで9試合、インターハイでも決勝でスタメン出場したMF伏原俐空について。選手権ではまさかのメンバー外。「理由はわかっていた」と自分をしっかりと見つめ直した彼がスタンドから見た選手権で学んだ大切なこととは。

「最初は悔しい思いが強かったのですが、選手権をスタンドから応援して、感動というか、心を大きく揺さぶられました」

 伏原は選手権初戦から決勝までスタンドでメガホンを持って声を枯らした。福岡県出身で小学生時代は無名の存在だったが、足元の技術とアジリティーに長けたプレーセンスが神村学園中学の目に留まり、スカウトをされて鹿児島にやってきた。

 中学ではアタッカーとして主軸となり、高校進学後は1年時にプレミアリーグWESTで2試合に出場し、昨年は2年生の中ではDF竹野楓太、MF花城瑛汰に次ぐ3番目に多いプレミアWEST9試合に出場。優勝したインターハイも決勝の大津戦のピッチに立った。

 だが、「プレミアに使ってもらえたことで、『自分は試合に出られるんだ』、『このままでいいんだ』というスタンスになってしまった。それによって生まれた隙や甘さを見透かされたのだと思います」

 選手権の最終メンバー発表の時、自分の名前はなかった。ショックこそ受けたが、メンバー外になる理由は自分なりに解釈できた。

「心のどこかで『選手権にも出られるだろう』という気持ちがあって、その隙や甘さがピッチ外の立ち振る舞いにも出てしまって、サッカーに集中しているような行動をしていなかったと感じました。なので、外されたことは悔しかったけど、(外された理由は)理解していました」

 自分で気づくことができたことで、伏原の『スタンドで戦う選手権』はより大きな意義と価値をもたらすことになった。悔しさがありながらも、彼は応援に全力を尽くそうと臨んだ。すると、ピッチからはその気持ちに応えてくれるパッション溢れるサッカーが全試合で展開をされた。

「3年生のプレーはもちろん、それ以外の立ち振る舞いに感動したというか、凄いなと思いました。初戦の東海学園戦は点差が開いても一切手を緩めることをしない。常に全力で、相手に向かって挑み、チームのために走っている。初戦を見て『こういうチームが優勝するんだ』と思いました」

 3回戦、準々決勝でも変わらぬ姿勢をピッチで見せる先輩たち。いつの間にか夢中で応援し、まるで自分もピッチの上で一緒に戦っているような感覚になった。

「本当に衝撃的で、特に3年生は『ここに全てを懸けてきたんだな』と思った。それが僕には出来ていなかったから外れたんだと改めて思いました」

 中でも準決勝の尚志戦は「これからもずっと心に残る試合」だったという。

「相手に押し込まれる苦しい展開の中でも全員が集中を切らさずに走っていた。90分間全て、心を突き動かされるような試合で、サッカーの技術どうこうではなく、切り替えの速さやチームのために全力で走っている姿に心の底から感動したんです。いつも一緒にやっていて、ピッチでもプレーしていた選手たちなのですが、選手権ではより大きく見えた。選手権は悔しさよりも、『スタンドから見る光景やピッチに立つ選手たちのプレーをしっかりと目に焼き付けて、来年の自分の糧にしよう』と思って応援することができたので、僕にとって最高の気づきと学び、それ以上に感動的な大会になったんです」

 選手権までの自分に欠けていた部分をしっかりと認識できたことで、技術を超えた戦うメンタリティーを手にすることができた。だからこそ、新チームの初陣である新人戦鹿児島県2回戦の鹿児島南戦でも、ベンチスタートだったが仲間のために声を出したり、率先して行動したりする伏原の姿があった。

 そして、12分に早くも出番が回ってくると、インサイドハーフとして硬さが残るチームに喝を入れるような激しい前からのプレスと攻守の切り替えの速さ、得意の突破のドリブルを駆使してチームを活性化。2-0で迎えた後半28分には左からのクロスを豪快なヘッドで突き刺して勝負を決定づけた。

「ヘディングは元々苦手だったんです。でもチームのために、ゴールを取るためにと考えてプレーをしたら、身体が自然と反応しました」

 決意の一撃だった。早くも成長の証をプレーで示した彼の背番号は、出世番号の12から16番になった。その番号変更もまた、彼にとってはポジティブなことだった。

「僕はもう何番でもいいんです。16番であれば、この番号を大事な番号にすればいい。試合に出るため、チームに貢献するため、何より学校に7本ある優勝旗を一本も返さないためにも、全力を尽くすことが自分の成長にもつながると思っています。昨年、3年生たちが教えてくれたものを大切にしていきたいと思います」

 悔しいという抽象的な気持ちに収めずに、「なぜそうなったのか」に目を向けられたからこそ掴んだ成長。意識次第で物事の捉え方は大きく変わるし、それによって得られた気づき、学びが人を成長させる。伏原を見ているとその大切さを改めて教えてもらった気がした。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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