スペイン1部→大学院「悔しくて」 ゲーム会社&起業の二刀流…元プロの異色キャリア

インタビューに応じた井手ウィリアム航輔【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
インタビューに応じた井手ウィリアム航輔【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

スペイン1部レガネスを退団した井手ウィリアム航輔、「サカつく」に携わる

 2019年にスペイン1部ラ・リーガのCDレガネスと契約を結んだ日本人を覚えているだろうか。コロナ禍もあって帰国することになったDF井手ウィリアム航輔は、プレーが叶わないまま2020年6月に契約満了で退団。現在は株式会社セガで「サカつく」などの開発に携わる異色のキャリアにインタビューで迫った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・工藤慶大/全5回の最終回)

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 2019年2月にレガネスとプロ契約を結んだが、22歳という若さで現役引退を決断した井手。日本でベンチャー企業に入社してセカンドキャリアをスタートさせたが、生活はけっして楽ではなかった。「それがすごく悔しくて」という思いもあり、進学することを決めた。

「ベンチャー企業に勤めて、メディア運営やIT関連の仕事に携わっていました。当時勤めていたベンチャー企業の代表から声をかけていただき、会社員としての経験がほとんどない状態で入社しましたが、サッカーメディアの運営やIT業務を一から教えていただきながら、実務に従事していました。

 一方で、高卒という学歴がすごくコンプレックスで、親にも大学までは絶対に出ろとずっと言われていたのと、自分のスキルアップにもなるから、進学しようと思いました。でも、大学に行ったら4年間かかるから、それだとすごく長いと思いました」

 そのなかで、スポーツ選手としての実績などの審査によって、大学院から進学できる制度を利用。会社を辞めて筑波大学の大学院に2年間通い、スポーツウエルネス学を修了して修士号を取得した。その間もサッカースクールの運営や社会人のサッカーチームの立ち上げなどに携わるなど、学業と両立していた。

「僕がいたのはスポーツウエルネス領域で、アスリートの競技力向上や、スポーツビジネスという側面からオリンピックや世界陸上などの国際大会について学ぶんですね。でも、僕はどちらかというとセカンドキャリアの研究をして、論文をまとめました。

 日本とアメリカでアスリートをやっている若い世代を比べたときに、セカンドキャリアのことを考える日本人アスリートのほうが少ないのではないかという仮説を立てて、実際にどうかというのを検証したんです」

 その結果、日本のほうがセカンドキャリアを考える人が少なく、「けっこうダントツな差が出ましたね」と明かす。「逆にアメリカは高校生や中学生のときからキャリアカウンセリングとかがあるから、セカンドキャリアを考えているのは、ほぼ8割とか9割。やっぱりその分、(もちろん物価の考慮もあるが)年収も高いですね」と教えてくれた。

 では、なぜこのような論文をまとめようかと思ったのか。J3やJFLのトライアウトに参加したとき、ガソリンスタンドやスポーツ用品店などでアルバイトをしながらサッカーに打ち込んでいる選手たちを見たからだ。

「お金を稼ぐためのバイトをしている選手が多いように感じました。セカンドキャリアやデュアルキャリアを考える選手は少なく、『まずはサッカーを頑張る』という考え方でした。その打ち込み方は素晴らしいものだと思いますが、その考え方に違和感を覚えました。

 アメリカではサッカー選手になれなかったら、じゃあ医者になるとか、歯医者になるとか、弁護士になるとか、キャリアパスが全然違うんです。日本では弁護士になりたいと言う選手に、少なくとも私は出会ったことがないですね。そこの差を自分で体感して違うなと思っていたから、実際に調べてみたらやっぱり全然違いました」

 自身もアメリカで幼少期を過ごした影響もあってか、サッカー選手ではないときのキャリアも考えていた井手。大学院を修了後にセガへと入社すると、現在は「会社員としてセガで勤めています。セガでは通訳や翻訳の業務をはじめ、海外支社との連携や、プロジェクトに所属して全体の進行の管理もさせていただいています」との日々を送る。

「昨年リリースした『ソニックランブル』で初めてプロジェクト専属の通訳として付かせてもらいました。『サカつく』を新しくリリースするので、直近では欧州のコミュニティ担当として、欧米では有名なFootball Managerを手がけるSports Interactive社との連携や、欧米インフルエンサーとの協業などを担当しています。

 セガでの仕事の魅力は、大企業のトップレベルの役員やプロジェクトの責任者と一緒に仕事ができる点です。私は通訳や連携を担う立場として、意思決定の現場に近いところで関わらせていただいており、彼らがどのようにプロジェクトを推進し、判断を重ねていくのかを間近で学べる環境にあります。その経験は、自身にとって非常に大きな学びになっています」

 また、1月22日に正式リリースされる「サカつく2026」では、井手もプレイヤーとして実装されている。新作をプレーする機会があれば、ぜひ探して育ててみてほしい。

 そして、副業として2024年12月には「SOLO ARENA」という自身の株式会社を立ち上げた。「今サッカーの自主練施設を全国的に展開していきたくて、それを事業として副業でやっています」。会社員と二足の草鞋で多忙な日々を送る。

「月曜日から金曜日までは、午前10時から午後7時まで普通の会社員として働いています。事業の方は、朝とか夜の空いている時間とか、土日などそれ以外の時間を使って、打ち合わせをしながら進めている感じですね」

 プロサッカー選手としての夢は、思い描いた形では叶わなかったかもしれない。それでも井手は、「ビジネスという形で日本のサッカー界に貢献し、子どもたちに価値のある体験を提供できるビジネスモデルを作りたい」と前を向く。「サカつく」や「SOLO ARENA」を通じて、今後もサッカーに関わり続けていく。

(FOOTBALL ZONE編集部・工藤慶大 / Keita Kudo)



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