冨安健洋はアヤックスで活躍できる? 独特のチーム編成…抱える”売りクラブ”としての葛藤

アヤックス加入が決定した冨安健洋【写真:MB Media/アフロ】
アヤックス加入が決定した冨安健洋【写真:MB Media/アフロ】

アヤックスは12月16日に冨安獲得を発表

 冨安健洋のアヤックス加入が決まった。アーセナルとの契約切れでフリーになっていたので移籍金はかからない。いくつかのクラブ間で争奪戦が展開されていたようだ。負傷からの回復具合が懸念されたが、アヤックスのメディカルチェックを通過しているのでプレーできる状態なのだろう。

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 アヤックスは独特のチーム編成を行っている。

 まず若手が非常に多い。第16節の“デ・クラシケル”、フェイエノールト戦の先発メンバーに20歳以下が3人いる。今季大活躍の左ウイング、ミカ・ゴドツが20歳、MFショーン・ステュアは17歳、板倉滉とCBを組んだアーロン・バウマンは18歳。交代出場して2点目をゲットしたジョルティ・モキオも17歳だ。37人のトップチームに17歳が4人、18歳3人、19歳3人と十代が10人もいる。

 逆に30歳以上のベテランも5人いる。主力としてはフェイエノールト戦で先制点をゲットしたダフィ・クラーセンが32歳。フェイエノールト戦は欠場だったがオランダ代表のCFワウト・ヴェルフホーストが33歳。28歳の板倉はフェイエノールト戦ではクラーセンに次ぐ“高齢”だった。体力的にピークと思われる25歳前後のフィールドプレーヤーは両SBのルーカス・ローサ(25歳)とオーウェン・ワインダル(26歳)の2人だけである。

 つまり、若手とベテランで構成されているチームで働き盛りの中間層が少ない。

 これは南米など選手輸出型チームに表れている傾向で、経験が少ない若手をどんどん試合に出して露出を増やし、早い段階で移籍させる。若手の穴は次の若手で埋めて循環させていく。一方、チームを支える存在としてベテランは必要で、クラーセンや板倉、新加入の冨安も若手をリードしていく役割を期待されている。本来働き盛りの中間層は若手の席を空けるために意図的に数を制限しているのだろう。そもそもその年齢になる前に移籍してしまうわけだ。

 冨安は今季いっぱいの半年契約という特殊なケースだ。

 W杯までに試合勘を戻したい冨安と、守備の安定感を求めたアヤックスの思惑が一致した模様。アヤックスのDF陣はモキオ(17歳)、バウマン(18歳)、マイロ・フアンデルランス(18歳)、ジェラ・アルダース(20歳)と若手が多い。基本システムは伝統の4-3-3だが、実質的にはMFが1人下りてラインに加わる可変5バックを採用している。この守備型システムが機能して3位まで順位を上げているのだが、アヤックス本来のプレースタイルではない。日本代表の板倉、冨安を組ませることで本来の4バックに戻すつもりなのではないか。

 冨安の獲得をめぐって強化担当者が辞めている。冨安の加入で若手の出番が減れば、若手を移籍させていく方針に反するわけで、目の前の安定をとるか若手抜擢を堅持するかでクラブ内に葛藤があったと想像される。

 かつては欧州の強豪だったアヤックスも現在は経営規模でトップ30に入らない。欧州5大リーグのクラブが収入トップ30を占めている。例外はベンフィカだけ。そのベンフィカと同様にアヤックスは移籍金収入の割合が高い。収入トップクラスのレアル・マドリーが10%程度に対して30~40%が移籍金収入なのだ。これは放映権料の違いであり、オランダ、ポルトガル、ベルギーのクラブは移籍金で経営を回していかなくてはならない。

 ただ、アヤックスはオランダのビッグクラブとしてタイトル獲得はマスト。そのせめぎ合いの末の冨安獲得なのだと思う。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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