トップ昇格断り→強豪大へ 突如襲われた”異変”… 乗り越え掴んだJ内定「地獄のような時間だった」

筑波大学で10番を背負う山崎太新(左)【写真:安藤隆人】
筑波大学で10番を背負う山崎太新(左)【写真:安藤隆人】

大分に内定している筑波大MF山崎太新

 大学サッカー界の年内最後の試合となる第74回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)が開幕した。今年は全国7地域のリーグ戦で上位となったチームが12月8日に一発勝負のプレーオフを戦い、勝者が関東王者の筑波大学、九州王者の福岡大学、関西王者の関西学院大学、東海王者の東海学園大学がいるそれぞれのリーグに入って決勝ラウンドへ。敗者が強化ラウンドとなるリーグ戦に移行するという方式で覇権を争う。

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 ここではインカレで輝いた選手たちの物語を描いていく。今回は決勝トーナメント進出を果たした筑波大のMF山崎太新について。11月にJ2・大分トリニータ加入内定が発表された筑波の10番であり、キャプテンでもある彼の心の内側とは。

 左サイドから安定したボールキープと突破力、そしてテンポの良いパスで攻撃のリズムメークをする山崎は、昨年から今年の夏にかけて苦しい時間を過ごした。

 高校時代は横浜FCユースでプレーし、トップ昇格の打診もありながら「サッカーと自分への理解を深めたい」と筑波大に進学をしてきた注目の存在だった。1年生からすぐに頭角を現し、2年生ではレギュラーに定着し、チームの攻撃にアクセントを加える存在として活躍を見せた。

 大学サッカーをとんとん拍子に来ているかに思われたが、大学2年生の冬に異変が起こった。股関節に痛みが走る。診断結果はグロインペイン症候群だった。

「3年生が勝負の1年だと思っていたので、なかなか万全に戻らない身体に焦りというか、もう苦しくて、なんと表現したらいいか分からない地獄のような時間になりました」

 アピールの場と位置付けていたデンソーカップチャレンジも辞退、天皇杯で町田ゼルビアを破る大金星もスタンドから見つめていた。

 躍動を見せる仲間たちに反するように、いつまで経ってもトップコンディションに戻らない自分がいる。焦りも生じるようになり、一度崩れたバランスはなかなか元には戻らず、結果として3年生は復帰と離脱を繰り返し、関東大学サッカーリーグ1部では出場4試合と不本意な1年になった。

 筑波大のグラウンドに行くと、いつも端で黙々とリハビリや負荷調整をする姿があった。多くを語るタイプではないが、悔しさを押し殺しながらメニューをこなす目は、苦しみながらもしっかりと前に向けられていた。

「自分の身体のコンディションがなかなか安定せず、思うようなパフォーマンスを出せない悔しさ、苦しさはありましたが、心の中には『自分がやるべきことをブラさずにやっていけば、自ずとパフォーマンスは戻ってくる』と信じる気持ちがあったので、1日、1日を大事にして、毎日の身体のケアだったり、食事の部分だったり、怪我を再発させないようにこだわってやってきました」

 もう過ぎ去ったことは取り返すことはできない。自分を信じることができるかがこの苦難を乗り切る唯一の術だと理解し、彼は大学最後の1年間に不退転の覚悟を持って臨んだ。

「10番もキャプテンも自分で立候補しました。それくらいの覚悟を持って挑みたいし、筑波を再び日本一のチームにしたいんです」

 この決意は本物だった。細かい負傷による離脱こそあったが、天皇杯ではJ2の大宮アルディージャ撃破に貢献し、関東1部においても後期は不動の存在として躍動し、リーグ優勝に大きく貢献した。

 進路も11月に大分から正式オファーをもらい、「自分を高く評価していただいていると凄く伝わったので決めました」とプロ入りも手にすることが出来た。

 そして、大学最後のインカレ。10番として、キャプテンとして、筑波大の先頭に立って走り抜く覚悟を持って臨んでいる。

「筑波を日本一に導くような活躍をする。今はそれしか考えていません」

 はっきりとこう口にした言葉の力は強かった。酸いも甘いも経験させてもらった大学サッカーの有終の美を有言実行で締めくくるべく。山崎は決勝トーナメントにすべてを懸ける。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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