街中で聞こえる「こんな値段で」 日本との違い…欧州の指導者は「ビジネスを同時に考える」

シント=トロイデンのアカデミー責任者を務める髙野剛氏【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
シント=トロイデンのアカデミー責任者を務める髙野剛氏【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

シント=トロイデンのアカデミー責任者、髙野剛氏が語る育成とお金の関係

 日本代表がブラジルに歴史的勝利を収めるなど、日本サッカーは著しい躍進を遂げている。ナショナルチームの強化が実を結ぶ一方、次なる成長の鍵を握るのがJリーグの価値向上だ。ベルギー1部シント=トロイデンVVのアカデミー責任者を務める髙野剛氏に、欧州の育成現場から見た日本の課題について話を聞いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・工藤慶大)

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 今年6月にアメリカで開催されたFIFAクラブワールドカップ2025には、日本から浦和レッズが出場した。グループステージでは、欧州の強豪インテルを相手に接戦を演じるなど健闘を見せたものの3戦全敗。大会はチェルシーが頂点に立ったが、欧州における注目度は、残念ながら高いとは言えなかったという。

 というのも、同時期の最大の関心が移籍市場の動向だったから。戦術やピッチ上の現象も重要だと前置きした髙野氏は、「それが今の日本サッカーの土台を築き上げたことは間違いない。しかし次のステップに進むためには、どの選手にいくらお金がかかるか、価値を現場も把握しないといけない」と指摘する。

 欧州では、地元クラブが育てた選手が移籍する際の移籍金について、「おかしいでしょう」「いや、こんな値段で売れたのか」という会話が、熱心なファンでなくとも日常的に交わされる。髙野氏は「だから、現場のコーチもそういうのを敏感に感じながら選手育成をやっています」と、その土壌の違いを語る。

 髙野氏の家族や知人にもプロ野球のファンは多いというが、球場に通い詰めるような熱心なファンではなくても、選手の年俸のアップダウンなどの話題は日常茶飯事だ。「そういう話をしているのを、サッカーの方でも起こせるようになってきたら、本当に文化としてしみついた証拠だと思うんです」と語る。

 アカデミーで育てた選手が世代別の代表に選ばれた場合、「これくらいの値段になってほしいとか。育成の現場でも当たり前のようにお金の計算ができます。欧州の指導者はビジネスとフットボール指導を同時に考えます。日本の指導者にも、そうした感覚が少しずつ広がっていくと良いと思います」と髙野氏。浦和の挑戦をJリーグ全体の課題として受け止め、次の成長につなげていく必要があるとした。

「これくらいの値段になりそうだからもっと力を入れて育成しようとか、ほんの少しの事ですけど、最終的にどういう効果として現れるかというとかなり違います。ただ単に上に上げるだけとは違いますよね。そこにかけていくエネルギーや試行錯誤、選手を含めた育成に関わる人たちの責任感が違ってくるので、それが後々の大きな変化になってきます」

 多くの選手が欧州へ挑戦する時代にはなったが、Jリーグは「欧州からは育成が進んでいるリーグで、良いタレント発掘ができるリーグという立ち位置です」と髙野氏。2026-27シーズンから秋春制へと移行し、欧州と移籍ウインドーが揃う今だからこそ、育成の価値観を変える好機なのだという。

「そういうことを意識して育ったコーチがいずれダイレクターになります。ダイレクターになったとき、お金による相場を把握した上でトップチームで育成も進めます。すると、欧州との値段交渉のときの論理的な根拠ができる。そういう感覚を身につけると、さらに価値のあるリーグになっていくと思います」

 欧州の代理人から「僕の方にもコンタクトを取ってきますし、あの手この手で選手たちを日本から引き抜こうとしてきます」と明かす髙野氏。「だからこそ、今のうちにこういうことを把握しないと、日本のタレントがだんだん薄くなってきた状態でハッと気づいたときにはもう遅いと思います」と警鐘を鳴らす。

 とはいえ、髙野氏は「日本人の気質から、いい育成というのは今後も続いていくと思います」と予想する。「今のこの脂の乗っているリーグをさらに活かしていきたいと考えると、W杯も大事ですけど、こちらも大事かなと思います」。代表の躍進にJリーグも続くため、育成とお金の価値観が鍵になりそうだ。

(FOOTBALL ZONE編集部・工藤慶大 / Keita Kudo)



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