唯一無二の引退試合 興梠慎三が望んだ「ガチで」…埼スタに蘇った黄金期・激闘の記憶

興梠慎三の引退試合が行われた
昨シーズンを最後に浦和レッズで現役を引退した興梠慎三氏が、12月13日に埼玉スタジアムで引退試合を行った。キャリアのスタートから8年間所属した鹿島アントラーズと、11年間プレーした浦和が対戦する形式で「URAWA REDS 2017 vs KASHIMA ANTLERS 2007-09」と銘打ったゲームは、興梠氏が望んだ「ガチで」の空気に包まれた独特の引退試合になった。
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興梠氏は2005年に宮崎県の鵬翔高校から鹿島に入団。07年から09年のリーグ3連覇に大きく貢献し、この日はその当時のメンバーが中心に出場した。また、13年に浦和へ移籍してからは17年にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を優勝するなど長年エースとして君臨してクラブ歴代最多得点記録も樹立。北海道コンサドーレ札幌に期限付き移籍した1年間も合わせて20年間のプロ生活を昨年限りで終えていた。
興梠氏は引退後に浦和のクラブスタッフを務めながら指導者の勉強をしているだけに、浦和でのラストプレーとして双方の強かった時期のメンバーを集めるコンセプトでのゲームになった。そして、クラブの公式チャンネルなどを通して「0-0で終わっても良いからガチの試合を」と宣言していた。
前半9分に浦和は鮮やかな崩しから幸先よくゴール前のこぼれ球を興梠氏が押し込んだが、53歳になった鹿島OBでU-22日本代表監督の大岩剛氏ら鹿島の守備陣も奮闘。この試合のためにスロベニアから来日したFWズラタンの追加点に抑えて、浦和が2-0のリードでハーフタイムへ。後半に向け両者とも大きくメンバーを入れ替えると、現在は他クラブ所属の選手も含む、現役プレーヤーたちもピッチに増えて一進一退の攻防に。鹿島が1点を返したが、浦和はこの試合のため、2か月前に膝の手術を行い状態を整えたという李忠成氏のゴールで突き放して3-1で終わった。
FW大迫勇也(ヴィッセル神戸)のアシストから1点を奪ったDF昌子源(FC町田ゼルビア)は「絶対に(興梠)慎三君に点を取らせたくなかった」と、鹿島の一員として、最終ラインで本気のプレーを披露。浦和でプレーしたFW武藤雄樹(SC相模原)も「パスを通させてくれるのかなと思ったら、真剣にみんなディフェンスしてガチガチだなと思って。でも慎三さんがそれを望んでましたからね」と笑った。
興梠氏は試合後の記者会見で、両サポーターも「ガチで」という言葉を汲み、時にはブーイングも交えながらピリッとした空気が作り出された空間も含め、「自分が現役選手の時に普通に試合をやっているような空気を作ってくれて。選手たちもそれに応えて必死にやっている感じが、引退試合ではなく試合をやっている感じでしたね。特に後半は2-0で勝っている状況の中で、なんかちょっと引いてしまっている自分たちもいるし、なんかもう『試合をしているなあ』という感じでした」と充実感を漂わせていた。
引退試合にありがちなお約束のプレゼントPKや、場内に聞こえるような出場者のインタビューなどのエンタメ要素はない。それでもスタジアムには満足感があり、誰もがこの1日を楽しんだ。サポーターも含め、両クラブがJリーグ30年以上の歴史の中で積み重ねてきたライバル関係や、タイトルを争う舞台で何度も対戦した激闘の記憶、何よりそれぞれの黄金期に主力として貢献しながら愛された興梠氏だからこそできた唯一無二の引退試合だった。












