雰囲気を一変させた17歳「こいつ、やるな」 20個上の先輩が驚愕…“奇跡の年”に生まれたニュースター

姫野誠のゴールをアシストした米倉恒貴が振り返った
ジェフユナイテッド千葉と徳島ヴォルティスが激突するJ1昇格プレーオフ決勝が、13日に前者のホーム・フクダ電子アリーナでキックオフを迎える。17年ぶりのJ1復帰を狙う千葉の最年長選手で、2009シーズンまでのJ1時代でもプレーした37歳の米倉恒貴は、RB大宮アルディージャとの準決勝で決めた衝撃的なプロ初ゴールで千葉を救った17歳、姫野誠が放つ眩い輝きが「フクアリの奇跡」を再び導くと確信している。(取材・文=藤江直人)
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努めて冷静になって考えてみた。目の前で歴史に名を刻んだ“あいつ”と自分は、年齢がいくつ離れているのか。昭和63年に生まれたジェフユナイテッド千葉の最年長選手、37歳の米倉恒貴は21世紀になって久しい平成20年に生まれた17歳の姫野誠と20歳も違うと改めて気づき、図らずもこんな思いを抱いてしまった。
「自分の子供、と言ってもおかしくない年齢ですよね」
今夏にトップチームに2種登録され、10月にはジェフユナイテッドU-18に所属したままプロ契約を結んだ高校2年生の姫野とは、年齢差を超えた共通の話題があった。米倉が明かす。
「生まれ育った地元もすごく近いし、あいつのコーチがたまたま僕もかつて教わっていた方という偶然もあって、いつもそういった話をしていたんですけど……練習からものすごくいいパフォーマンスを続けているし、自分が高校2年生のときと比べたら、ちょっと考えられないくらい堂々としている。大物感があるんですよね」
予感は現実のものになった。ホームのフクダ電子アリーナに、RB大宮アルディージャを迎えた7日のJ1昇格プレーオフ準決勝。レギュラーシーズンを3位で終えた千葉は、引き分けでも決勝に進めるアドバンテージを得ながら前半20分、32分、そしてエンドが変わった後半3分と立て続けに失点を喫した。
奈落の底へほとんど陥りかけていた後半15分。千葉の小林慶行監督が動く。大宮戦で初めてベンチ入りしていた姫野を、最初の交代カードとともにデビュー戦のピッチへ送り出した。カタールで開催されていたFIFA・U-17ワールドカップから帰国して間もない両利きのアタッカーは希望の光を放ったのはわずか2分後だった。
左サイドハーフとして投入された背番号37がいきなりドリブルを仕掛け、相手ゴール前へのカットインから石川大地とパス交換。直後に迷わずに左足を一閃した姫野のファーストプレーに、リザーブの一人としてアップを重ねていた米倉はフクダ電子アリーナの雰囲気が変わったと感じずにはいられなかった。
「もちろん諦めてはいなかったけど、それでもかなり苦しいと感じていました。それでも17歳のホープが出てきただけでスタジアムがすごく盛りあがりましたし、さらにあいつが放った最初のシュートで『こいつ、やるな』という雰囲気をチームに与えてくれたし、周囲のみんなもそういう思いにさせられた感じでした」
1点を返した直後の後半28分。小林監督が今度は3枚替えの大勝負に打って出る。交代でピッチに立った一人の米倉が姫野とのホットラインを開通させたのは、1点差に詰め寄った6分後の後半38分だった。
自陣からの浮き球のボールを呉屋大翔が頭でつなぎ、米倉がワンタッチで前線へボールを供給する。ポジションを移していた右サイドから、以心伝心で駆けあがってきた姫野が見せたプレーに米倉は衝撃を受けた。
「あの場面で高校2年生が胸トラップから、相手選手の間をぶっちぎっていく。これであいつが決めたら『本当にやばい』というところで本当に決めてくれた。僕に話せることはもうありません、という感じですよ」
胸トラップからスピードを落とさずに相手ペナルティーエリア内へ侵入。左右から挟み込んできた相手に体勢を崩されながらも、必死に残した左足をボールにヒットさせる。シュートは絶妙のループ弾と化して大宮のGK加藤有輝の頭上を越えて、無人となっていたゴールの左隅へゆっくりと吸い込まれていった。
奇跡の同点ゴール。このまま試合が終わっても千葉の決勝進出が決まる。しかし、熱狂の坩堝と化したフクダ電子アリーナの雰囲気に導かれるように、4分後の同42分に千葉の河野貴志が逆転ゴールを頭で決めた。
怒濤の4連続ゴールによる大逆転勝利。思い出されるのは2008年12月6日のJ1リーグ最終節だ。ホームでFC東京に2点をリードされる苦境から、千葉が後半29分、32分、35分、40分と連続ゴール。4-2の逆転勝利とともにJ1残留を決めた一戦は「フクアリの奇跡」としていまも語り継がれている。
当時は八千代高校から千葉へ加入して2シーズン目で、FC東京との伝説の最終節でベンチ入りを果たせず、フクダ電子アリーナのスタンドで応援していた米倉のなかで、当時といま現在とが鮮やかにシンクロしている。
「当時もそうですけど、最近はいつもものすごい応援をしてくれるし、あの雰囲気は本当にものすごい力になる。僕たちに120%くらいの力を出させてくれるし、そこで試合ができるのは、最大のアドバンテージになる」
奇しくも2008年に産声をあげたのが姫野だった。翌2009シーズンをもって千葉がJ2へ降格し、以後の16年間をJ2で戦い続け、その間に5度もJ1昇格プレーオフ決勝および準決勝で敗れてきた苦難の歴史も、もちろんJ1復帰へのプレッシャーも知らない姫野は、初々しい口調で歴史に刻まれたゴールを振り返っている。
「米倉さんが自分を見てくれていたので、それをゴールという形にできて本当によかった。実は狙ったシュートではなかったんですけど、そのなかでゴールに入ってくれて本当によかったと思っています」
開幕から上位につけてきた千葉の軌跡がファン・サポーターを熱狂させ、フクダ電子アリーナのボルテージを一気に高める。そして昇格への案内人を担うかのように、姫野が衝撃的なデビューを果たした。米倉が笑う。
「本当にスター性があるし、あいつがこのチームの夢と希望を担っていくと思っています」
J2リーグの最終的な順位や大会レギュレーションなどの関係で、フクダ電子アリーナでJ1昇格プレーオフが開催されるのは実は今回が初めてとなる。準決勝のもう1試合は4位の徳島ヴォルティスが1-1で5位のジュビロ磐田と引き分け、レギュレーションにより前者が勝ちあがってきた。再びホームで大一番に臨める状況を最高の追い風に変えながら、千葉が17年ぶりの大願成就をかける決勝は13日午後1時5分にキックオフを迎える。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。





















