ビデオ撮影から1年…果たしたリベンジ「悔しくて仕方がなかった」 成長し古巣へ「帰ることが目標」

東海大の菊池悠斗【写真:安藤隆人 】
東海大の菊池悠斗【写真:安藤隆人 】

東海大の2年生守護神・菊池悠斗

 大学サッカー界の年内最後の試合となる第74回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)が開幕した。今年は全国7地域のリーグ戦で上位となったチームが12月8日に一発勝負のプレーオフを戦い、勝者が関東王者の筑波大学、九州王者の福岡大学、関西王者の関西学院大学、東海王者の東海学園大学がいるそれぞれのリーグに入って決勝ラウンドへ。敗者が強化ラウンドとなるリーグ戦に移行するという方式で覇権を争う。

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 ここではインカレで輝いた選手たちの物語を描いていく。第6回は東海大の2年生守護神・菊池悠斗について。188センチのサイズとフィジカルを誇る彼は、尊敬するGKたちへの思いを力に変えている。

 インカレプレーオフ・東海大vs中京大の一戦。東海大学サッカーリーグ1部において4位の成績を収めた東海大は、東海学生サッカーリーグ1部・3位の中京大に対し、2-0の完封勝利を収め、決勝ラウンド進出を手にした。

「今日の試合に懸ける思いは本当に強かった。絶対に自分がゼロに抑えて勝ちたいと思っていました」

 その言葉通り菊池は鬼気迫る表情で中京大の前に立ちはだかった。前半は正確な足元の技術を駆使してビルドアップや攻撃の起点として機能し、コーチングで守備を動かして相手のシュートをゼロで抑えた。

 前半アディショナルタイムのJ2・FC今治内定のDF丸山大和の先制弾でリードを奪った後半は、中京大の猛攻を受けるも、今度は身体を張ったセーブや細かいステップワークからのコース切りでゴールに鍵をかけた。58分にカウンターを受け、右サイドからクロスを送り込まれるが、ファーに飛び込んできた中京大FW中嶋晃成の姿を間接視野で捉え、ボールに飛び込まずに中嶋のシュートコースを塞ぐ守備に切り替えた。鮮やかなステップワークからボレーで合わせにきた中嶋の正面に立ったことで、相手のシュートミスを誘った。

 そして67分、この試合の行く方を大きく左右するビッグセーブを見せた。ペナルティーエリア内でMF小田村優希を1年生FW玉田滉喜が倒してしまい、PKを与えてしまった。

「先輩の出番だと思った」とピンチにも動じなかった菊池は、小田村のキックをドンピシャのタイミングで右に飛んで両手で弾き出した。

 このビッグセーブで流れを取り戻した東海大は76分にJ3・ガイナーレ鳥取内定のFW星景虎が追加点を決めて勝負あり。終始安定したゴールキーピングでチームを決勝ラウンドに導いた。

「去年、本当に悔しい思いを味わった相手だったので、リベンジに貢献できて本当に嬉しいです」

 実は去年のインカレの予選ラウンドでも中京大と戦い、延長戦でも決着がつかず、2-2からPK戦の末に敗れて、決勝トーナメント進出を逃し、強化ラウンドに回ることになった。この試合、菊池はベンチ入りもしていない。スタンドからビデオカメラを回していた。

「この試合はまるで自分が出ているかのようにのめり込んでしまって、負けた瞬間はピッチの選手たちと同じくらい悔しくて、悔しくて仕方がなかったんです」

 理由はシンプルに「試合が白熱していて面白かったから」と口にする。「先輩たちの気合いが凄くて、しかも1人退場者が出たにも関わらず、1点を掴み取ってPK戦まで持ち込んだ。本当に鳥肌が出たし、自分が出ていない試合であんなにのめり込んだのは初めての経験でした」

 それだけに1年越しのリベンジを、今度はピッチの上で果たせるチャンスを得たことが何より嬉しかったし、昨年戦った先輩たちへのリスペクトと恩返しを込めて何がなんでも勝ちたかった。彼にとってこの試合は初対決ではなく、感覚的には2度目の対決だった。

「もっとこの大会で自分の価値を証明したいです。リーグ戦も4位で終わって、いい順位に見えますが、やっぱり優勝を目指している以上は満足できてない。だからこそ、インカレで日本一取って悔しさを晴らしたいなと思っています」

 リベンジを果たした守護神の目はもう決勝ラウンドに向けられている。同時にこの大会で活躍をすることで、『愛してやまない場所』へ自分の存在をアピールできることも理解している。

「大学に来て感じるのは、フロンターレのアカデミーで身につけたものが本当に自分のベースになっているということ。特にビルドアップ面はGKでも『見る、見つける』をしっかりと叩き込まれて、その上で相手を欺くプレー、逆を取るプレーを磨くことができた。そのおかげで常に相手の流れを断ち切るプレーをイメージできているし、それが今日の試合でも生きた。技術とサッカーを楽しむことを教えてくれたフロンターレに帰ることが、今の僕の1番の目標なので、そこを目指して頑張りたいと思いました」

 川崎U-12、U-15、U-18とフロンターレ一筋の菊池の目標とする選手はチョン・ソンリョン。だが、彼は今季をもって川崎を離れることになった。

「ソンリョン選手はジュニアの時から、本当にずっと憧れの選手だったので、その選手がいなくなってしまう寂しさと悲しさはあります。ソンリョン選手は本当に『壁』そのもの。僕もそうなりたいし、トップのキャンプに参加した時もずっと優しく、いろいろ教えてくれた安藤駿介選手も引退することになって……。プレーも人間性も素晴らしい2人がいなくなるのは、フロンターレにとって一つの入れ替わりの時期だと思うのですが、やっぱり2人のコメントなどを見させていただいて、本当に泣きそうになりました」

 レジェンド2人の思いと自分自身のフロンターレ愛。そして「今は東海のために」と東海大への強い思い。あふれる思いを抱いて、2年生守護神はインカレのピッチに立ち続ける。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

page 1/1

安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング