川崎に求められる“王道への回帰” 顕著だった好不調の波…欧州から考える「本物の王者」

長谷部監督「最後は台無しになった」
11月8日に行われたJ1リーグ36節の岡山戦は、今シーズンの川崎を象徴するような幕切れとなった。
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序盤は互角に近い攻防が続いたが、後半川崎がボール支配を増すと形勢は一気に傾く。攻勢が必ずしもスコアには繋がらなかったが、それでもようやく同39分に山本悠樹のシュートが相手DFの頭に当たり、ゴールネットを揺する。ゲームをコントロールしてきたホームチームが均衡を破ったことで、ほぼ勝利を手中にしたかに見えた。
ところが岡山は後半アディショナルタイムの50分、ラストチャンスに佐藤龍之介のクロスを松本昌也が頭から飛び込み、土壇場で同点に追いついた。J1初昇格の岡山は、この試合で残留が決まった。
川崎の長谷部茂利監督はこう振り返った。
「危ないシーンもたくさんはなかった。トレーニングしてきたことも出せて良い流れになりそうだったが、最後に台無しになった」
とにかく今年の川崎は、大事な節目で勝負弱かった。ACLEで決勝進出を果たすまでは、格の違いを見せるような総合力を発揮したが、帰国後は逆に潜在能力を引き出しきれない忸怩たる試合を繰り返すようになる。
夏に高井幸大、山田新が移籍し、故障者が連鎖したこともあったが、シーズンを通して好不調の波が顕著だった。6月には新潟に快勝し追い上げに弾みをつけようとする矢先に、4日後には精彩を欠き東京Vに敗戦。7月にもせっかく首位の鹿島に競り勝ちながら、翌節にはG大阪に白星を献上してしまう。9月、ホームの柏戦も後半4-3と先行し、5点目を奪うチャンスも到来したが、終了間際に追いつかれ、今度はルヴァンカップ準決勝の同カードで初戦を終えて2点のリードを奪いながら、退場者を出し逆転の憂き目にあった。
再び岡山戦後の指揮官の弁である。
「試合をクローズするために、ボールを保持し、失うにしても相手陣内の高い位置で…。そういうことが出来なかった」
前任の鬼木達監督時代から、川崎は少しずつボール支配率を落として来た。最初に連覇を達成した2018年が57.6%だったが、2度目の連覇となった2020、2021年は55%を切り、翌2022年には再び55%を超えるも結果が伴わず鬼木監督が退任した。一方で今年新任の長谷部監督は、攻守でメリハリの効いた戦い方を追求し、支配率は50.7%まで下降。J1の上位戦線では、昨季に連覇を達成した神戸や広島、町田、京都などの台頭で「縦に速いサッカー」が主流を成し、逆にどこのチームでも決してぶれないリカルド・ロドリゲス監督の指揮する柏が異彩を放っている。
しかしカウンター志向だけでは、本物の王者は生まれない。川崎の歴史を大きく変えたのは、ボール支配の徹底こそが最大の守備と考える風間八宏元監督で、典型的な夢追い人が「止めて蹴る」で抜きんでる攻撃的チームの土台を築いた。今でも川崎は最も娯楽性の高いチームの一つで、その基盤を支えているのが、見事にチームに即した選手たちの補強を続けるスカウト陣なのだと思う。実際、国内復帰で改めて能力の高さを証明した伊藤達哉、クラシックな創造性に満ちた展開力を擁す山本らは、いつ日の丸をつけてもおかしくないし、それ以外の移籍加入組も大半が川崎の色に染まっている。
おそらく川崎は、今、過渡期に差しかかっている。ただし上手く個々の能力を結束できれば、ゲームも勝ち点も支配できる真のリーダーに返り咲く可能性を秘めている。最近のUEFAチャンピオンズリーグの結果を見ても、ポゼッションの優劣とゲームの勝敗が一致したのは6試合で、反面下回った側が勝利したのも6試合だった。例えばリバプールは、39%のボール支配でレアル・マドリードに1-0で勝利。バイエルンは、パリ・サンジェルマンに71%も支配されながら2-1で突き放した。だが国内に戻ればリバプールが開幕からの11試合で支配率で劣ったのは、アウェイのチェルシー戦1試合のみ。ここまで9勝1分けと無敗のバイエルンも、すべて59%以上(最高74%)を記録している。
昨年福岡を率いた長谷部監督は、リーグ最下位の42.6%の支配率ながら12位に踏み止まった。しかし、J1を4度制覇の川崎では、改めてJリーグを代表するクラブとして王道への回帰を追求して欲しい。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。





















