関東では「埋もれてしまう」 プロ目指し選んだ別の道…痛感した甘さ「みんなの前で言えない」

名古屋産業大学の工藤聖太郎【写真:安藤隆人】
名古屋産業大学の工藤聖太郎【写真:安藤隆人】

名古屋産業大学の2年生ストライカー工藤聖太郎

「新しい環境に飛び込むことは大変ですが、いろいろ学ぶことが多いです」

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 名古屋産業大学の2年生ストライカーの工藤聖太郎は、中学まで青森、高校を埼玉、今は愛知で大学生活を送っている。

「青森山田を倒したい」と心に誓って、青森のリベロ津軽SC U-15から昌平高にやってきた工藤は、179センチのサイズとスピード、シュートスキルも高く、地上戦でも空中戦でもゴールに迫ることができる。

 だが、昌平のFW競争は激しかった。同学年には1年からスタメンを張ったFW小田晄平(東海大)が、1学年下には屈強なストライカー・鄭志鍚(東洋大)がいた。その中で工藤は必死で自分の長所を磨いた。

 それが思わぬ形で結実する。高校3年時、彼はサイドバックにコンバートされ、サイドを駆け上がる迫力とカットインやミドル、クロスの精度で頭角を現した。プレミアリーグEAST後期ではFWでも起用されるようになり、2ゴールをマーク。高校最後の選手権では1回戦から準々決勝まで全試合途中出場で1ゴール。

 準々決勝では優勝をした青森山田に0-4の敗戦を喫してしまったが、覚悟を持って飛び込んだ環境で掴んだものは、家族の大切さと目標設定の大切さだった。

「青森に帰る度に親のありがたみを感じますし、昌平には青森山田を倒したいという明確な目標があったからこそ、最後は負けても3年間を誇りに思えた。大学もきちんとした明確な目標を持たないといけないと思って進路は考えました」

 多くの同期が関東や関西の大学に進む中で、彼は東海学生サッカーリーグ1部に所属する名古屋産業大を迷わずに選んだ。

「正直、僕が関東の大学に行ったら埋もれてしまうと思ったので、関東以外の地域に行ってプロを目指したいと思いました。その中で名産大に昌平の先輩がいたので、練習会に参加をしてみたらサッカーが自分のスタイルに合っているし、雰囲気も良くて『ここだ』と思ったんです」

 より青森から遠い名古屋の地で4年間を過ごすことを決めた彼は、1年目から出番を掴んだが、2年生エースストライカーとして大きな期待を背負った今年は、度重なる怪我に苦しんだ。

 開幕2戦目までスタメン出場をするが、足の違和感を覚えて診察を受けると、右の第2、第3の中足骨の骨折が判明した。1か月半ほど離脱をし、5月31日の第9節・名古屋学院大戦で復帰し、今季初ゴールをマークするが、続く第10節の愛知学院大戦で今度は膝の内側を負傷し、再び離脱を強いられた。

 前期はそのまま出場がなく、復帰は夏になった。だが、コンディション調整がうまくいかず、復帰以降はコンディションを戻す時間がかかってしまった。そこで改めて彼は自分が何のためにここに来たのかということと、自分の甘さを痛感したという。

「怪我から復帰して、『俺が出たら勝てる』と思っていましたが、そんなに甘くはなかった。もっとリハビリ中に復帰した後のことを考えて取り組むべきところもありましたし、もっともっと自分を鍛えないといけない。フィジカル的にもスピード的にも一人で打開する力を持って、チームの最初の1点が取れるような選手になりたいと思っています」

 東海1部・第20節の岐阜聖徳学園大戦、工藤は0-0で迎えた75分に投入された。前線でポストプレーと裏へのスプリントでゴールに迫ったがシュートを打ちきれず。チームも78分に失点をして、0-1の敗戦を喫した。

「何もできませんでした。本当に悔しいです。ここに来たのはプロになるためで、関東で埋もれないようにここに来たのに、ここで埋もれてしまっていたら意味がない。『このままでいいのか』と思うし、今年は絶対にデンソー(チャレンジカップ)に出ないといけない年だし、もっと絶対的な選手にならないとみんなの前で『プロに行く』なんて言えないので、もっとこだわりを持ってやっていきたいです」

 いま、彼は強烈な危機感を覚えている。それを成長への、反撃へのパワーに変えるべく、青森、埼玉、愛知と渡り歩いた男は、自身の中のエネルギーをまっすぐ前に注ごうとしている。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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