プロ5年目で恩師との約束果たすも「悔しい」 監督が獲得直訴…大型CBが見据える未来「ここからだと」

京都のアピアタウィア久【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
京都のアピアタウィア久【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

京都DFアピアタウィア久が9試合ぶりに出場

 後半終了間際のラストワンプレーで首位の鹿島アントラーズが追いつき、そのまま1-1で引き分けて3位の京都サンガF.C.との勝ち点5ポイント差をキープした10月25日の大一番。9試合ぶりの出場を先発で果たした京都のセンターバック(CB)のアピアタウィア久が、プロ入り時の約束をようやくかなえた。身長192cm・体重85kgの巨躯を誇る27歳が悩み、もがきながらトンネルを抜け出そうとしている軌跡を追った。(取材・文=藤江直人)

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 恩師と交わした約束を、プロ5年目の終盤戦になってようやくかなえた。

 歴代最多となる2万353人ものファン・サポーターで埋まったホームのサンガスタジアム by KYOCERAに、首位の鹿島アントラーズを迎えた10月25日のJ1リーグ第35節。CBで先発した京都サンガF.C.のアピアタウィア久は、キックオフの笛が鳴り響いた瞬間に節目のリーグ戦通算100試合出場を達成した。

「いいプレーを見せられたかもしれないけど、悔しい思いのほうがやはり多いですね」

 後半アディショナルタイム6分に鹿島の鈴木優磨に同点ゴールを決められ、直後に試合終了となる残酷な幕切れ。足が攣ってプレー続行が不可能となり、後半29分にピッチを後にしていたアピアタウィアはかすれ果てた声で鹿島との勝ち点差を詰められなかった無念さに言及しながら、個人的な記録をちょっとだけ喜んだ。

「プロになる前に大学の監督に『まず100試合出場だぞ』と言われていたので、それを今日の試合で達成できたのはうれしい。久々の先発でやってやろうという気持ちと、冷静さを同居させながらプレーできたと思う」

 母校・流通経済大学を卒業する際に、サッカー部の中野雄二監督と交わした約束。昨シーズンを終えた段階で出場試合数が92を数えていたアピアタウィアにとっては、もっと早く達成できる可能性もあった。

 しかし、今シーズンはリザーブのまま終えた試合が17を数えただけでなく、ベンチ入りメンバーからも外れた試合も10を数えた。CBコンビのファーストチョイスは清水エスパルスから加入して2シーズン目の鈴木義宜と、浦和レッズから期限付き移籍して2シーズン目で、流通経済大学のひとつ後輩でもある宮本優太だった。

「試合に出られない状況は、いままであまり経験したことがなかった。けっこう辛い時間が続いていたけど、そこでふてくされていたら成長は止まってしまうし、選手としてもう終わりだと思っていました」

 こう振り返ったアピアタウィアは、ベンチやスタンドから鈴木や宮本のプレーを凝視した。192cmのサイズを誇るアピアタウィアはCB陣で最も高い。それでも171cmの宮本が起用される理由を探し続けた。

「自分はもともと身体能力でプレーしてしまう選手だったので、試合に出られない間に優太(宮本)やノリくん(鈴木)の細かいポジショニングを間近で見ながらめちゃくちゃ勉強しました。試合の映像も何度も見返しました。特に優太のプレーに関しては、あいつのおかげで成長できたと今日の試合で実感しています」

 湘南ベルマーレとの前節で一発退場した鈴木が、出場停止処分を科された鹿島戦。曺貴裁監督から「お前らしいプレーをしてくれ」と先発を告げられ、9試合ぶりにピッチに立ったアピアタウィアが魅せたのは武器と自負するエアバトルの強さだけではない。冷静なポジショニングやカバーリング、前線へのフィードを何度も披露した。

 足が攣って交代したのは反省材料だが、それでも曺監督は試合後の公式会見でこう語っている。

「これまで悔しい思いをしてきたアピ(アピアタウィア)はクリーンに守ってくれたし、攻撃的な部分でも本当によく戦ってくれた。今日の試合で勝つために選んだ選手であり、それに応えるプレーも見せてくれた」

 流通経済大学からベガルタ仙台へ加入した2021シーズン。すでにJFA・Jリーグ特別指定選手として2020シーズンのリーグ戦で6試合に出場していたアピアタウィアは29試合に出場。終盤戦はCBのレギュラーも射止めながらチームはJ2降格を喫した。迎えたシーズンオフ。京都から望外のオファーが届いた。

 アピアタウィアが大学4年生だった2020年に流通経済大学のコーチを務め、翌年から指揮を執った京都をJ1へ復帰させていた曺貴裁監督のラブコールを受けて、アピアタウィアは引き続きJ1の舞台でプレーした。

「彼ほど高い身体能力を持ったCBはなかなか日本にいないので、クラブに『ぜひ獲得してほしい』とお願いした。ここで再び一緒に仕事できるのはうれしいけど、彼はうるさいと思っているかもしれない」

 オファーを出した経緯を語りながら苦笑した曺貴裁監督の期待に、アピアタウィアが完全に応えてきたとは言い難い。身体能力の高さに頼っていたからか。2023シーズンと昨シーズンで合計4度の一発退場を命じられた。特に2023シーズンのサガン鳥栖戦では、相手に中指を立てる不適切行為がレッドカードの対象になった。

 スクールの手伝いなど社会貢献活動を科した曺貴裁監督は当時、決して懲罰ではないと語っている。

「アピがもう一度、フットボーラーとして戻って来られるための時間だととらえてほしい」

 感情をうまくコントロールしてほしい、という指揮官の熱い思いが込められた措置。思うように出場機会を得られなかった今シーズンも、機会があるたびに「絶対にお前の出番はあるから」と声をかけられた。

 鹿島との6ポイントマッチで引き分けた京都は、残り3試合で勝ち点5差のまま3位にとどまっている。それでも誰一人として白旗をあげていない。アピアタウィアもかすれ果てた声で仲間たちに続いた。

「ここからだと思っています。自分の成長は」

 地道に積み重ねてきた努力が、ようやく実を結びつつあると実感している。だからこそアピアタウィアは胸を張ってファイティングポーズを取った。中野監督と交わした100試合出場はもちろん通過点。稀有な身体能力の高さに緻密さ、そして冷静さも融合させた27歳のCBが、京都に新たな力を加えようとしている。

(藤江直人 / Fujie Naoto)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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