強豪校→大学進学も…2度考えた”辞めどき” 初戦で即結果…プロ入り逃しても「続けます」

中部大学の伊藤氷麗が明かした本音「サッカーを辞めようと思っていたんです」
東海大学サッカーリーグ1部第20節・中部大vs名古屋学院大の一戦で、中部大3年生のFW伊藤氷麗(いとう・ひょうま)が4ゴールというド派手な花火を打ち上げた。
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横浜F・マリノス入りが内定しているボランチ・樋口有斗を軸に、多彩なパスワークと局面での個の打開力を駆使して、相手を翻弄していく超攻撃的なサッカーを展開する中部大において、FWと右サイドハーフの両方を高いレベルでこなせる伊藤の存在は重要だ。
スピードがあり、瞬間的な動き出しでスペースに顔を出すと、スピードを維持したまま正確なボールコントロールで前に運んでいく。シュートスキルも高く、名古屋学院大戦では相手を剥がしていくリズミカルな攻撃のなかで、ゴール前のスペースに顔を出して正確なシュートでゴールを4回射抜いた。6-3の勝利の立役者となり、得点ランキングも2位(15ゴール)まで浮上した。
「これまで2度、サッカーを辞めようと思っていたんです」
試合後に話を聞くと、伊藤から意外な言葉が出た。伊藤は愛知県出身で一宮FCジュニアユースから指導者とのつながりから、山口県の高川学園高に進学をした。高川学園ではスピードを生かした突破で2年時から右サイドハーフとして頭角を現したが、この年のベスト4まで進んだ選手権では登録メンバーには入るも、全試合ベンチ外となった。
この時、大学ではサッカーを続けない意志を持っていた。しかし、努力を重ねて高校3年生でようやくFWとしてレギュラーの座を掴み、インターハイ1回戦でスタメン出場を果たしてことで考えが変わった。
「初戦で高知高に0-2で負けて、凄く悔しかったし、初めて全国大会を経験して価値観が大きく変わりました」
それでも、夏以降に調子を落としてしまい、高校最後の選手権では登録メンバー30人にも入ることができなかった。しかし、ここで1度火がついたことで、彼の意思は変わらなかった。ちょうどインターハイ後に1学年上の先輩が進学した中部大の練習に参加をして推薦をもらっており、「大学サッカーでもっと自分を成長させたい」という意欲に満ち溢れていた。
「正直、東海大学サッカーリーグのイメージは全くありませんでしたが、練習に参加をした時に周りが本当に上手かったんです。堀尾(郷介)監督の掲げる『止める・蹴る』を大事にしていて、しっかりとスペースを活用して足元で繋いでいくサッカーにも共感し、ここなら成長できると思ったんです」
しかし、高校時代同様に1、2年目はなかなか芽が出なかった。1年生の時は2チーム参加をしているIリーグ(セカンドチームのリーグ)でも、一番下のBチームでプレー。2年生になってIリーグのAチームでプレーするようになったが、トップチームは遠かった。
それでも「僕に足りないのは足元の技術。毎日の練習をきちんと真剣にこなしていればチャンスは来ると思っていたし、トラップや動き出しなど着実に上手くなっているのが分かったので、モチベーションは下がらなかった」と自己研鑽をコツコツと重ねていく。
結果、2年のIリーグ全日程終了後に残っていた東海1部の試合でトップデビューを果たすと、3年生になった今年は第4節の愛知学院大戦で今季初スタメン。そこでいきなり初ゴールをマークすると、ここからスタメンに定着した。
「実は大学に入る時に、サッカーは3年生までと思っていたんです。なので、3年までは全力でやり切って、4年は社会に出る準備をしようと。でも、今その考えは一切なくなりました。4年の最後までやり切ってプロを目指したいですし、例えプロになれなくても、社会人でサッカーを続けます。それくらいサッカーが楽しいんです」
高川学園の1個上の先輩であるMF林晴己(明治大)が鹿島アントラーズに内定し、1学年下でインターハイでは2トップを組んでいたFW山本吟侍(関西学院大)が総理大臣杯で大きな活躍を見せた。「もちろん彼らから刺激をもらっていますが、それ以上に僕のサッカー熱が高まっているんです」と語るその顔は、まさにサッカー小僧そのものだった。
「まだまだ足りないところが多いので、中部大でしっかりと学んで、積み重ねて、もっと怖いFWになっていこうと思っています」
最後に、大学で躍動を見せる教え子について高川学園高・江本孝監督に話を聞くと、こう嬉しそうに目を細めた。
「当時の氷麗は大人しくて、ピッチでなかなか自己主張ができなくて、選手権はそれができる選手がメンバー入りをした。選手権メンバーに選ばれずに悔しい思いがある中で、こうして大学で頑張ってくれるのは嬉しいですね。スピードはずば抜けたものがあるので、地元の大学でもっと技術を磨いて、さらに成長してほしいですね」
サッカー小僧の熱量は恩師の元にも届いている。より好きになったサッカーにのめり込みながら、伊藤は溢れる思いをプレーで表現し続ける。
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。




















